178話 妹と二人きりの夜
ファミレスで夕飯を食べて……ちなみに、安くておいしいサイゼにした……みんなと別れて、結衣と一緒に家に帰る。
「ただいま」
「おかえりなさい」
俺がそう言うと、結衣が応えてくれる。
結衣がそう言うのは、ちょっとおかしいんだけど……
でも、誰かに『おかえり』って言ってもらえるのは、いいもんだな。
「お風呂の用意してきますね」
「俺がやるよ」
「兄さんはゆっくりしててください。慣れないことばかりで、今日は疲れたでしょう?」
「それを言うなら、結衣も疲れただろ?」
「私はまだまだ余裕です。それに、兄さんは雑なところがあるので、準備は任せられません」
「ひどいこと言うな」
「事実じゃないですか。この前も、軽く掃除をすることなく、いきなりお湯を張ろうとしてましたよね?」
「……キオクニゴザイマセン」
「ここに証拠の写真がありますが」
「なんでそんなもの持ってんの!?」
妹の用意周到っぷりが半端ない。
「冗談ですよ。そんなもの、用意してるわけないじゃないですか」
「ホントに冗談なのか……?」
「……」
「怖いからそこで黙らないでくれるかな!?」
そんなこんなありつつ……
結衣が風呂の用意をして、その間、俺はリビングでのんびりする。
少しして結衣が戻ってきた。
「おつかれ」
「三千円になります」
「金とるの!?」
「妹が準備したお風呂は高いんです」
字面だけ見ると、なんかいかがわしい感じがするな。
「お湯がいっぱいになるまで、10分くらいはかかるから、それまでは待ってくださいね」
「了解。って、俺が先に入っていいのか?」
「構いませんよ。兄さん、今日は疲れたでしょう? お風呂に入って、ゆっくりしてください」
「それを言うなら、結衣も疲れたんじゃないか?」
「まあ、それもそうですが……お風呂をちょっと我慢するくらいで、どうにかなるわけでもないので。まずは、兄さんにゆっくりしてもらいたいんです」
「献身具合が半端ないな。結衣は、良い嫁さんになるぞ」
「ふぇっ!?」
火が点いたように、ボッと結衣が赤くなる。
「えっ、いや、その……あ、ありがとうございます」
「あ、と……」
少し前に、結衣から告白されたばかりで……
そんな俺から、良い嫁さんになるとか、そんなことを言われたら当然意識してしまうわけで……
自分の迂闊な発言を呪う。
どうして、こう、余計なことを言ってしまうのか?
というか、何も考えないで口を開いているせいか?
それとも……意識していないから?
どちらにしろ、今の発言はよろしくない。
あの時のことを意識してしまい、微妙な空気になってしまう。
「……」
「……」
「あの……に、兄さん」
「な、なんだ?」
「その、えっと……う、うれしいです」
「えっ」
「ですから、その……良いお嫁さんになる、って言ってくれて……うれしいです」
「そ、そっか」
「……でも、兄さん以外の相手はイヤですよ?」
「うぐっ」
「兄さんとなら……だ、大歓迎です♪」
恥じらいながらも、うれしそうな顔をする結衣。
正直に言うと、かわいい。
今だけは、結衣は妹ではなくて、一人の女の子に見えた。
「ぐいぐい来るな……」
「言ったじゃないですか。私、ただ待っているつもりはありませんよ……って」
「それはそうなんだけど」
「私の方を見てもらえるように、がんばりますからねっ」
この勢いに呑まれて、そのまま流されてしまうような気が……?
って、そんなことはいけない。
断るにしろ受け入れるにしろ、きちんと自分で考えて、自分で答えを出さないと。
「話は戻るけど、風呂は結衣が先でいいぞ? 俺だって、今すぐに入らないと死ぬってわけじゃないし」
「そんなことを言われても……」
「結衣が俺のことを気遣ってくれるのはうれしいけどさ。なんだかんだで、俺は結衣の兄のわけで……妹を優先するのは当たり前だろ」
「そんな理由ですか」
なぜか結衣が不機嫌そうになる。
「兄さんにとって、私はあくまでも『妹』なんですか?」
「あ、いや……そういう意味で言ったわけじゃないんだが」
「ふーん、そうですか」
「これからどうなるかわからないけどさ……今は、結衣の『兄』なんだから。これくらい、普通だろ?」
「むぅ……私は、今すぐにでもその先に行きたいんですが」
「それは勘弁してくれ……まだ、色々と混乱してるっていうか、気持ちがまとまってないんだ」
「わかっています。唐突、っていうのは私も自覚していますから……そうでなかったら、即決即断を求めていましたよ」
きちんと手順を踏んでいた場合は、その場で答えを求められていたのか。
ホント、ぐいぐい攻め込んでくるな。
結衣は、こんな子じゃなかったと思うんだけど……
本当の結衣は、こんな性格だったんだろうか?
それとも、『何か』があって変わった?
何が結衣を変えたんだろうか?
気になるけれど、具体的な想像はできなかった。
「良いことを思いつきました」
「なんだ?」
「どちらが先で揉めるのなら、いっそのこと、い、いいい……いっひょにお風呂に入りまふぇんかっ!?」
「落ち着け、ものすごい勢いで噛んでるからな」
「うぅ……やっぱり、恥ずかしいです……」
安心した。
やっぱり、結衣は結衣だ。
「いくらなんでも、そこまで体を張ろうとするな。やりすぎだ」
「迷惑ですか……?」
「じゃなくて……」
そこまでぐいぐい来られたら、本当に落とされてしまいそうで困る。
「……そういうことは、本物になってからだろう?」
「残念ですが、待つことにします……でも、諦めませんからね!」
「とりま、風呂に入ってこい」
「はい」
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