177話 妹とライバルと友だちと
電車を降りて、地元の駅を出る。
見慣れたいつもの景色。
ようやく戻ってきた、というのが正直な感想だ。
そんなことを思うくらい、今日は色々なことがあったからなあ……
「では、私はこれで」
小鳥遊さんが、一歩、みんなの輪の外に出た。
「結衣さん、またな」
「はい、また学校で」
「宗一先輩も、他の皆もまた」
「うん。また今度」
らしい挨拶をして、小鳥遊さんがこの場を立ち去る。
あんなことがあったのに、いつも通りでいられる。
ホント、気持ちのいい子だ。
今後、良い友だちになれるような気がする。
「むぅ」
隣の結衣からジト目を向けられた。
「どうした?」
「兄さん、先輩のことをじっと見ています。見惚れているんですか?」
「そんなわけないだろ」
「どうでしょうか。兄さんは、わりとムッツリなところがありますからね。心の中では、どんなことを思っているかわかりません」
なんで、ここまで言われないといけないんだ……?
俺、本当にこの妹に告白されたんだよな……?
「あっ」
「なんですか?」
「もしかして、嫉妬してるのか?」
「っ!!!?」
結衣の顔が赤くなる。
どうやら図星みたいだ。
「こんなことで嫉妬するなよ。ただ見てただけだろ」
「ど、どどど、どうしてこんな時だけ鋭いんですか! 兄さんのあほっ!」
「今のは宗一が悪いわね」
「先輩、サイテーです」
「お兄ちゃん、ダメダメだねぇ」
他のみんなも、ここぞとばかりに俺をいじる。
お前ら、なんで結託してるんだよ。
女の子コワイ。
「とりま、これで一件落着かしら?」
「だな」
明日香の言う通り、小鳥遊さんの問題は解決だ。
今後にしこりを残すこともないだろうし、友だちとして良い関係を築いていけると思う。
それはいいんだけど……
『大好きです』
……新しい問題が浮上したんだよな。
これはどうしたものか?
さすがに、みんなに相談することはできない。
というか、仮に相談できたとしても、してはいけない。
これは、俺がきちんと考えて、人の意見に左右されず、答えを出さないといけない問題なのだから。
「お兄ちゃん、どうしたの? なんか、むずかしー顔してるよ?」
真白ちゃんが俺の様子に気がついて、小首を傾げた。
「い、いや。なんでもないよ」
「そっかな? 悩み事ありますー、っていうような顔してるけど」
目ざといな!
っていうか、どんな顔ですかそれは!?
「……今日の夕飯、どうするかな、って考えてたんだよ」
「あっ、そうゆーことなんだ。もうそんな時間だもんね」
「っても、今から作るのはさすがに面倒だな……遅くなるし。結衣、今日はどこかで食べて帰る、ってことでいいか?」
「はい、構いませんよ」
「ゴチになるわ」
「さも当然のような顔をしてたかるなっ!」
この幼馴染の辞書に、遠慮の二文字はないんだろうか?
「えー、おごってくれないの?」
「なんで明日香におごらないといけないんだよ?」
「幼馴染に貢ぐのは基本でしょ?」
「なんの基本だよ、なんの」
「あたしに忠誠を誓ったじゃない」
「はいはい、妄想乙」
「……かわいそうに。あの時のこと、忘れてるのね」
「兄さん、頭を打ってしまったから、その時の衝撃で……」
「えっ、結衣も乗っかるの!?」
「お兄ちゃん、真白たちみんなにご飯をおごってくれる、って言ってたのに……ひどいよ」
「大丈夫よ。いざという時は、先輩の財布だけを借りればいいのだから」
「真白ちゃんまで!? というか、凛ちゃんは恐ろしいことを言わないでくれるかな!?」
「これが私の平常運転ですが?」
「認めたくないけど否定できない!?」
いつもの俺たちに戻る。
騒がしくて、面倒で……でも、楽しくて。
気がついたら笑顔になっているような、そんな心地いい空間。
色々あって、結衣のことばかり考えていたが……
みんなに助けられたことも事実で、恩返しって言うと大げさかもしれないけど、何かしたいという気分になる。
まあ、飯をおごるくらいならいいか。
「じゃ、ロイホ行きましょ」
「もっと安いファミレスにしてくれよ!」
「ちっ、甲斐性のない男ね」
「やかましいわ!」
漫才のようなやりとりをしていると、結衣がくすりと笑う。
「どうした?」
「いえ……なんか、いつもどおりだなあ、と思って」
「そうだな、いつも通りだ」
でも、俺と結衣だけはいつも通りではいられない。
「兄さん。私、待っていますからね?」
「わかってるよ」
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