176話 妹とデートを終えて……
<宗一視点>
妹の告白事件。
妹が壊れた事件。
結衣、コンドームを発見する。
色々とあったものの、2時間はあっという間に過ぎて、俺たちはラブホを後にした。
「待っていたぞ」
「小鳥遊さん?」
少し離れたところに移動したところで、小鳥遊さんが現れた。
どうしたんだろう? まだ、デートの途中なのに……
不思議に思うけれど……
小鳥遊さんの真剣な表情を見て、不意に納得した。
小鳥遊さんは、どこか清々しい顔をしてた。
それでいて、寂しそうな、そんな矛盾した顔。
今日一日、結衣とデートをして……
さらに、ラブホに入るところを見せつけて……
ここまで、ということを悟ったんだろう。
そして、諦める決意をしたんだろう。
他に方法はないし、こちらからしかけたことなんだけど……
少し、心が痛む。
「予定とは少し違うが……もう終わり、ということで構わぬか?」
「ああ、俺はそれでも。結衣は?」
「……はい、私も」
「うむ。突然の予定の変更を受け入れてもらい、感謝する」
小鳥遊さんは笑っていた。
でも……泣いているようにも見えた。
「今日一日、二人のことを見させてもらった」
「どうだった?」
「そうだな……」
小さな迷いの後、小鳥遊さんは口を開いた。
それは、あるいは迷いではなくて、認めたくないという抵抗だったのかもしれない。
「恋人に見えたな」
「……そっか」
「宗一先輩は、結衣さんのことをとても大事にしていた。結衣さんは、宗一先輩と一緒にいると、とても優しい笑顔を見せた。これではもう、何も言えないな」
「なら、これで?」
「うむ。私は潔く去ることにしよう」
小鳥遊さんは俺たちに背を向ける。
一瞬、その背中を呼び止めそうになった。
女の子同士とはいえ、小鳥遊さんは本気で結衣のことを好きになった。
それなのに、だまし討ちをするようなことをして……
今更な話かもしれないが、これでいいのだろうか?
結衣にその気がないことは……まあ、ラブホの一件でわかったが、それでも、他に方法は……
「あのっ!」
呼び止めるように、結衣が大きな声を出した。
小鳥遊さんが足を止めて、不思議そうに振り返る。
「これは、自己満足かもしれませんが、でも、このままというのはどうしても……」
「む? どういうことだ?」
「ですから、その……」
兄妹だからだろうか?
それとも、好きと言ってくれたからだろうか?
俺には、結衣が言いたいことをなんとなく理解した。
結衣の背中を押してやるように、軽く肩を叩いた。
「兄さん……」
「ほら。言わないといけないこと、あるんだろ?」
「……はいっ!」
結衣は、一歩前に出る。
胸の前で手を重ねて、まっすぐに小鳥遊さんを見つめる。
そっと、口を開いた。
「……告白、ありがとうございました。好きって言ってもらえて、うれしかったです」
「結衣さん……」
「でも、ごめんなさい。私は、他に好きな人がいるんです。兄さんが好きなんです。だから……先輩と付き合うことはできません」
俺たちが……結衣が、ちゃんとしなくてはいけないこと。
それは、『しっかりと振る』ことだ。
そうすることが、相手に対しての礼儀だと思う。
自己満足なのかもしれないが……
とても大事で、必要なことに思えた。
「そう、か」
小鳥遊さんは、結衣の言葉を噛みしめるように、目を閉じた。
少しの間、沈黙が流れる。
ややあって、小鳥遊さんが目を開けた。
迷いのない、澄んだ瞳がそこにあった。
「私からも、ありがとう、と言わせてもらおう」
「え?」
「この恋が叶うことはなかったが……私は、結衣さんを好きになってよかった。そう思うくらい、結衣さんは素敵な人だ」
「……こちらこそ、ありがとうございます」
「お礼合戦になってしまいそうだな」
「ふふっ、そうですね」
「わがままを言ってもいいだろうか?」
「なんですか?」
「このまま、結衣さんとなんでもない他人になるのは惜しい。恋人は無理でも、友だちになることはできないだろうか?」
小鳥遊さんの想いに、結衣は笑顔で応える。
そっと、手を差し出した。
「はい、喜んで」
「うむ!」
二人は握手を交わして……
それと、笑顔を交わした。
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