174話 妹は待たない
ずるい答えかもしれないが、それでも、結衣は待ってくれると言った。
今は、それに甘えることにしよう。
ただ、甘えてばかりではいられない。
早いところ、俺の気持ちをハッキリさせないとな。
「ところで……」
「はい、なんですか?」
「そろそろどいてくれないか? なんていうか……この体勢、色々とやばいだろ?」
「……」
結衣がきょとんとした。
俺を見て……
自分を見て……
「っ!!!?」
改めて、『俺を押し倒して迫っている』という構図を理解したらしく、カアアアッと赤くなった。
カエルみたいにぴょーんと飛び退いた。
そのまま、ベッドの端までズザザザッと激しく後退する。
それでも止まらずに……
「あいたっ!?」
そのまま落ちた。
ウチの妹は、意外と抜けているのかもしれない。
「大丈夫か?」
「は、はい……」
慌てて立ち上がり、結衣のところへ。
手を差し出して、起こしてやる。
「すいません……急に恥ずかしくなって、つい」
「謝ることじゃないさ」
「そう、でしょうか?」
「そうだよ」
「……そうですね、ふふっ」
結衣が笑う。
それで、俺たちの間に流れる空気がいつものものに戻ったような気がした。
「ねえ、兄さん。前借りしてもいいですか?」
「前借り? なんのことだ?」
「それは……こういうことです!」
えいっ、とばかりに、結衣が抱きついてきた。
「ゆ、結衣っ?」
前からぎゅうっと抱きつかれる。
結衣の体温が伝わってきて、頬が熱くなる。
それだけじゃなくて、二つの柔らかい膨らみが……
い、意識したらいけない!
いけないけど……これ、無理だから!
「ちょっ、なにしてんだ!」
「ゆ、誘惑ですよ」
結衣も恥ずかしいらしく、顔をりんごみたいにしてた。
それでも、俺から離れようとしない。
むしろ、これでもかというくらいに、体を押し付けてきた。
や、柔らかい感触が……
それに、女の子特有の甘い匂いもして……
これは、なんていうか……やばい。
いやいや、待て!
飲み込まれるな、俺!
というか、なんでこんなことを……?
「私、兄さんが答えを出すの、待つことにしました。でも、おとなしく待つつもりはありません」
「な、なんだ、その矛盾した答えは?」
「兄さんは、私の告白の返事、これから考えるんですよね?」
「そう、だな」
「その間、こ、こんなことをして……兄さんの気を引いちゃいますから!」
「えっ!?」
「私のことしか考えられないようにして……そ、そうすれば、きっと、良い返事をもらえますよね!」
なんてことを考えるんだ!?
「私、ただ待っているだけなんて無理みたいです。私のことを見てもらえるように、振り向いてもらえるように……色々としちゃいますからね♪」
「それ、強引すぎないか……?」
「待たされるんですから、それくらいは許してください」
「ゆっくり考えるということは……」
「できないかもしれませんね。でも、それが?」
何も問題ないですよね、みたいな顔をされた。
一度、告白したせいなのか?
ぐいぐいと結衣が攻め込んでくる。
告白の際、あれだけ緊張してたのがウソみたいだ。
女の子は強い。
なんとなく、そんなことを思った。
「お手柔らかに頼む」
俺としては、そう言うしかなかった。
「そういえば……時間、あとどれくらいでしょうか?」
「えっと……30分くらいか?」
スマホで時間を確認すると、1時間と少しが経過してた。
「……延長しますか?」
「するかっ」
結衣に甘い視線を送られて、思わずドキドキしてしまう。
俺、妹の手の平の上でいいように転がされているような……
「そもそも、延長できるのか? カラオケじゃあるまいし」
「わ、わかりませんよ。私に聞かないでください」
「まあ、時間になったら出ていこう。というか、色々疲れた……俺もシャワー浴びていいか? スッキリしたい」
「え? あ、はい。いいですよ。どうぞ」
「……」
「なんですか?」
「覗くなよ?」
「覗きませんっ」
結衣は少し頬を赤らめながら、唇を尖らせるのだった。
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