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171話 妹とお約束のハプニング

「おまたせしました」


 後ろから結衣の声が届いた。


 おまたせ、ということはシャワーを終えたんだよな?

 振り返ってもいいんだよな?

 そう判断して、ずっと入り口の方に固定していた視線を動かす。


「スッキリしました。こういうところでも、シャワーを浴びると気持ちいいですね」


 ほくほく顔の結衣。

 濡れた髪をバスタオルで拭いていた。


「ふぅううう」


 気まずい時間はようやく終わり。

 そう思うと、ついつい長い吐息がこぼれた。


「兄さん」

「うん?」

「……覗いてないですよね?」

「ないない!」

「本当ですか?」

「本当だから。っていうか、なんで疑うんだよ」

「兄さんですから」

「どういう意味だよ!?」

「兄さんですから」

「その一言でなんでも片付けようと思ってないか!?」

「兄さんですから」

「うだあああああっ!!!」


 うちの妹が、日々、おかしな方向に進化してるよな気がしてならない。

 誰のせいだ?

 俺のせいか?


「本当に見てないんですか?」

「見てないから! 見るわけないだろっ」

「むぅ……そこまできっぱりと言われると、それはそれで複雑な気分ですね」


 どうしろと?


「おっ」


 ドライヤー発見。

 こんなものも置いてあるなんて、ラブホすごいな。


「髪、乾かしてやるよ」

「いいんですか?」

「ほら、ここに座った座った」


 ぽんぽんとベッドの縁を叩いた。

 言われた通り、結衣がそこに座る。


 俺は後ろに回り込んで、ドライヤーのスイッチを入れた。

 強さは『中』。

 ゴォオオオと温風を、少し離れたところから結衣の髪に当てる。


「んっ」


 櫛は見つからなかったので、手で結衣の髪を梳く。

 それが心地良いらしく、結衣は肩の力を抜いていた。


「兄さんに髪を乾かしてもらうの、久しぶりな気がします」

「そうだったっけ?」

「昔は、こうして、よくお願いしていましたよ」

「あー、そういえば」


 結衣に言われて、記憶が蘇ってきた。

 結衣がまだ小さい頃……小学生の時は、ドライヤーを使うのが苦手で、よく頼りにされたっけ。

 濡れた髪をそのままに、ドライヤーを持って俺の部屋に来て……

 雫が垂れて床が濡れて、色々と大変だったことを覚えている。

 今となれば良い思い出だ。


「どうして、今は兄さんにしてもらってないんでしょうね?」

「結衣がそれを言うか?」

「え?」

「『ドライヤーくらい、もう一人で使うことができます。兄さんは近づかないでください。ふしだらです』とか言って、結衣の方からNG出したんだろ」

「ソ、ソウデシタッケ」

「そうだよ」

「うぅ……昔の私、何をしているんですか……そんな素直になれないことを……まぁ、今も似たようなものですが……」


 結衣がぶつぶつつぶやいているが、ドライヤーの音でよく聞こえない。


「よし、こんなところだろ」


 髪を乾かして、形も整えた。


「お客さま、いかがですか?」


 結衣の肩に手をやり、壁に設置されている鏡に向ける。

 ……なぜ壁にでかい鏡が設置されているのか、そこは気にしないことにした。気にしたら負けだ。


「……ちょっと跳ねてますね」

「手櫛だから、そこは勘弁してほしい」

「……若干、髪がパサパサしてます。乾かしすぎです」

「ごめんなさい」

「ふふっ、なんて、冗談ですよ。ありがとうございます、兄さん♪」

「失敗したこと、怒ってないのか?」

「私から頼んだことですよ? それに……兄さんにしてもらったと思うと、これはこれでアリかな……なんて」

「そうか? まあ、これでいいならいいんだけど」


 よくわからないが、妹さまはごきげんだ。

 俺は良い仕事をした。

 そう思うことにしよう。


「さて、と……それじゃあ、残りの時間、何を……ひゃあっ!?」

「結衣っ!?」


 結衣が立ち上がろうとして……

 ドライヤーのコードに足を引っ掛けて、バランスを崩してしまう。

 咄嗟に小柄な体を受け止めて、二人してベッドに倒れ込む。


 ベッドに座っていたことが幸いした。

 ふわっとした感触に包まれて、痛みなんてまるでない。

 ただ、一応、怪我の有無は確認しておかないと。


「大丈夫か? 怪我してないか? どこかぶつけてないか?」

「あ、はい。兄さんがかばってくれたので、大丈夫です」

「そっか。それなら……」


 言いかけて、そこで気がついた。


 俺がベッドに寝ていて……

 その上に、結衣が覆いかぶさるような形で……


 男女の立場は逆転しているが、よく漫画であるようなハプニング的な体勢になっていた。

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