170話 妹はきわどいところを攻めます
<結衣視点>
「……」
「……」
「ヒマだな」
「ヒマですね」
ラブホに入って、10分ほどしたところで探検に飽きました
普通の部屋だから、それほど見るところがあるわけじゃありません。
広くないし、ほどなくして探検は終わりました。
で、残された1時間50分、何して過ごしましょうか?
「ゲームでもするか?」
兄さんは、気楽な調子でそう尋ねてきます。
その姿は、ホント、いつもと変わらない感じで……
むぅ。
そういうことが目的ではないとはいえ、一緒にラブホテルに入ったのに、何も感じていないんでしょうか?
私なんて、兄さんと一緒にラブホテル、という状況に、過呼吸になってしまいそうなくらいドキドキしているのに。
私だけなんて不公平です。
どうにかして、兄さんもドキドキさせたいです。
私のことを意識してもらいたいです。
「……よし」
「ん? どうした?」
「時間もあるから、私、シャワーを浴びてきますね」
「そっか」
兄さんは気もそぞろに、適当に頷いて……
「……は!?」
少しして、私の言葉の意味を理解したらしく、目を大きくしました。
「えっ? シャワーって……えっ?」
「へ、変なことを想像しないでください! 兄さんのえっち!」
「いや、でも、その……」
「今日はたくさん歩いたじゃないですか? それに、暑いから汗をかいてしまって……スッキリしたいんです」
「でも、ここの風呂は……」
「あっち、向いててください」
「えぇ」
「見たらダメですよ?」
「そ、それでいいのか……?」
「絶対に、見ないでくださいね?」
これ、芸人のフリみたいですね。
そんなことを思いながら、私は浴室に向かいました。
――――――――――
<宗一視点>
一人になり、急に部屋が静かになった。
いや、無音というわけじゃなくて、音はする。
部屋の奥の方から、服を脱ぐような、衣服がこすれる音が……
「って、俺は何を考えてるんだ!?」
ブンブンと頭を振る。
結衣は汗をかいたからシャワーを浴びるだけ。
それだけ。
他に意味なんてない。
慌てる必要なんてない。
ないんだけど……
ガチャ。
浴室の扉を開ける音がここまで響いてきた。
ややあって、サァアアアとシャワーの音。
「……」
今、結衣はシャワーを浴びている。
……全面ガラス張りの浴室で。
振り返れば、結衣の裸が……
「だから俺は何を考えているんだあああああっ!!!?」
ガンガンガンッ!!!
手近なテーブルに頭をゴンゴンとぶつけた。
煩悩退散っ、煩悩退散っ、煩悩退散っ!
「兄さん?」
ガラスの壁越しに、結衣のくぐもった声が飛んできた。
「な、なんだ!?」
「今、変な音がしたような気がするんですが……」
「ああ、いやっ、なんでもない! 気にしないでくれっ」
「そうですか? ……覗いてませんよね?」
「ないないっ」
「……ちょっとくらいならいいのに」
「なんだって?」
シャワーの音にかきけされて、よく聞こえなかった。
「覗いたらダメですよ?」
「わ、わかってるから」
「本当に覗いたらいけませんからね?」
「もちろん」
「本当の本当に、チラっとでも、見たらいけませんよ?」
「疑り深くない!?」
俺、そこまで信用されてないのか?
お兄ちゃん、悲しい。
その後……
結衣は10分ほどシャワーを浴びた。
その間、俺は悶々とした時間を過ごすのだった。
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