168話 妹とラブホへ
<宗一視点>
「……」
「……」
沈黙が流れる。
気まずいような。
恥ずかしいような。
そんな複雑な感情が伝わり、伝わってくるみたいだ。
結衣は顔を赤くして、軽くうつむいていた。
俺と目を合わせられないらしい。
俺も似たようなものだ。
たぶん、顔は赤くなっていて、落ち着きがなくソワソワしてて……
情けないことにうろたえていると思う。
でも、仕方ないだろう?
ラブホに入るなんて、初めてのことなんだから。
「は……入っちゃい、ましたね……」
「……だな」
「……」
「……」
「な、何かしゃべってくださいよ……」
「……何か」
「子供ですか」
「子供じゃないぞ……子供は、ラブホに入れないからな」
「……あぅ」
結衣の顔がますます赤くなる。
今の会話で、俺たちが『ラブホ』にいる、ということをさらに強く意識してしまったんだろう。
かくいう俺も意識してしまい、ますます妙な気分になってしまう。
「……兄さんのえっち」
「唐突にディスられた!?」
「す、すいません……つい本音が」
「本音なのか!?」
「す、すいません……冗談です。場の雰囲気を和ませようと……」
「むしろ、おかしくなったぞ」
「うぅ……し、仕方ないじゃないですか。こんなところ初めてで、どうすればいいかわからないんですから」
「まあ、それはわかるが……」
どうしていいのかわからない、というのは同意だ。
ホント、どうすればいいんだろう?
まるで異世界に迷い込んだような気分だ。
中に入ったところまではいいものの、そこから先、どうしていいか見当もつかない。
というか、頭がいっぱいいっぱいで、考える能力が失われているような気がした。
「ほ、本当に入るなんて……兄さんはえっちです」
「まだ続いていたのか!?」
「こんなところに連れ込むなんて……」
「待て待て! 結衣も同意の上だっただろ!?」
「そ、そんなことはありません! 人をえっちな女の子みたいに言わないでくださいっ。私は、兄さんに連れ込まれただけですよ」
「あれ? 俺が最低な人間に聞こえてきたぞ」
「ためらう私の手を引いて、『すけべしようや』って、私をホテルの中に……」
「あからさまな作り話だよな!?」
「私、汚れてしまいました……」
「あーもうっ! 何度もツッコミを入れさせるな!」
「つっ……兄さん、えっちです」
「その思考の方がエロいよ!」
「……」
「……」
「ふふっ」
「ははっ」
どちらからともなく笑いがこぼれた。
こんなところでも、俺たちは俺たちのままで……
いつの間にか、いつもの『らしい』雰囲気に戻っていた。
あれだけ緊張していたのがバカみたいだ。
まあ、本当に、本番までするとなると、とことん緊張するんだろうけど……
今回はそういうわけじゃない。
あくまでもラブホに入るだけだからな。
「みんな、ついてきてました?」
「ああ、それはちゃんと確認した。でないと、意味がないからな」
「ラブホテルに入るところを見せつける……これ以上ないくらいのイチャイチャですね」
そう……これは、作戦なのだ。
結衣とあれこれ話し合った結果……
普通にデートをするだけでは、小鳥遊さんを納得させられないかもしれない、という結論に至った。
普通のデート以上のことをしなければいけない。
どうするか?
答えは……ラブホに入る、というものだった。
俺たち学生が行き着く最後のポイントといえば、ずばり、エッチだ。
すでにそういう関係にあるということを教えれば、いくら小鳥遊さんとはいえ、諦めるしかないだろう。
とはいえ、本当にするわけにはいかないし、見せつけることもできない。
そこで、ラブホテルに入るところを見せつける、というわけだ。
これなら本当にエッチしなくても、俺たちがそういう関係にあると証明することができる。
……色々と勘違いされたくないから、明日香たちには事前に本当のことを話しておいたけどな。
「うまくいくでしょうか?」
「ここまで恥ずかしい思いをしたんだ。うまくいかなくちゃ困る」
っていうか、これでうまくいかなかったらお手上げだ。
これ以上の作戦なんて、もう思い浮かばないぞ。
「兄さん、どれくらいここにいるんですか?」
「一応、二時間でとったけど……すぐに出ても意味ないから、時間いっぱいいることにしよう。今日はあちこち歩き回ったし、ここで休憩していこう」
「兄さん、おじさんくさいです……」
「えぇ!?」
「せっかくの機会なんですよ? こういうところに入るなんて、次はいつになるか……次は、兄さんと本当に……あっ、でもでも、やっぱりまだそういうのは早い……いえいえ、なんでもありませんにょ?」
結衣が軽くバグっている。
やっぱり、まだ恥ずかしいのだろうか?
「せっかくだから、探検しませんか?」
「ラブホを? 他の部屋を覗き見するのは、ちょっと……」
「そんなことしませんよ!? 兄さんは、私をなんだと思っているんですか!」
「……」
「そこで沈黙はやめてくださいね!?」
これ以上からかうと、本気で怒られてしまいそうなので、この辺にしておく。
「まあ、ラブホなんて入る機会、滅多にないからな」
「そうですよ。これも社会勉強の一環です」
「なのか……?」
「見て回りましょう」
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