166話 妹とデートをしよう進展編・8
<宗一視点>
結衣の膝枕は極上だ。
冬のこたつのように離れがたく、ずっと甘えていたい気分になる。
とはいえ、いつまでも膝枕をしてもらうわけにはいかないし、それでは、今日の本当の目的を果たすことができない。
名残惜しいが、ほどほどのところで切り上げた。
「そろそろいい時間だな」
「そ、そうですね」
窓の外に見える空は、赤く染まり始めていた。
初夏なので、それなりに遅い時間だ。
本来の目的を果たすには、ちょうどいい時間だろう。たぶん。
「じゃ、行くか」
「そ、そうですね」
「緊張してるのか?」
「そ、そうですね」
「……結衣は、実は興味津々です」
「そ、そうですね……って、なにを言わせるんですか!?」
「悪い。なんか、緊張してるみたいだから……」
「私のために……?」
「半分はからかっただけなんだけどな!」
「ロクでもない理由でした!? あと、なんで堂々としてるんですか!?」
いい感じでツッコミが飛んできた。
完全に緊張が解けたわけじゃないが……
まあ、これくらい元気なら問題ないだろう。
「ほら。漫才してないで、早く行こう」
「兄さんのせいですよね……?」
ジト目で睨まれる。
いかん、わりと怒ってるのかもしれない。
あとで、ご機嫌取りをしておこう。
「あっ、みんなに声をかけなくていいんですか?」
「平気じゃないか?」
今日は、地元に帰るまでがデート、ということを事前に伝えている。
ここでショッピングセンターを後にしても、電車に乗らなければ、デートは終わりと勘違いすることはないだろう。
「夜遅いってわけじゃないし、まだデートは続くんだな、って思ってくれるさ」
「そうですかね?」
「それとも何か。結衣は、ちゃんと行き先を伝えたいのか? 俺たちは、今からアソコに行きますよ、って」
「ふぁ……」
ぼんっ、と結衣が赤くなる。
劇的な反応だ。
まあ、その気持ちもわからないでもない。
「そ、そそそ、そんなこと言えるわけないじゃないですか!」
「本当か? 実は、言いふらしたいんじゃないか?」
「ち、違いますっ! 私、そんなふしだらな女の子じゃありませんからねっ」
「そうなのか? 俺の知らないところで、結衣はふしだらなことを考えてるんじゃ……」
「うっ、うううーっ」
結衣はぷるぷると震えながら、顔をさらに赤くして、ジト目を向けてきた。
やばい、怒らせてしまった。
「ごめんごめん、冗談だよ」
「兄さん、嫌いです」
「俺が悪かったから。な? 機嫌を直してくれよ」
「嫌いです」
「いや、その……」
「すごく嫌いです」
おこだ。
妹さまは、激おこだ。
「えっと……あっ、そうだ。今日の夕飯、結衣の好きなものを作ってやるから!」
「私を子供扱いする兄さん、嫌いです」
ええい、これでもダメか!
……ダメに決まってるよな。
なら……
「そうか……俺のことが嫌いか……俺は、結衣のことが好きなんだけどな」
「えっ……?」
「でも、嫌いなら仕方ない……おとなしく、嫌われることにするよ……仲の良い兄妹の関係もこれまでだな」
「いえ、その……そこまでは、思ってないといいますか……」
押してもダメなら引いてみろ!
……ちょっと意味が違うかもしれない。
「俺のことが嫌いなんだろ?」
「それは、そのぉ……」
「いいよ、無理しなくて……イヤイヤ付き合わせて悪かったな。反省した。もう、こんなことはしないから」
「そ、そんなことはありません! 嫌いじゃないですよ……って、兄さん。また、私のことをからかってませんか? 好き、って言わせようとしてませんか?」
「……」
「無言で目を逸らさないでください! もうっ」
頬を膨らませる結衣。
ただ、ある程度、機嫌は直ったみたいだ。
ぷりぷりとしながらも、普通に話をしてくれる。
「今回のことは、特別に許してあげます」
「ははーっ」
「もう、変なことを言ったらダメですよ?」
「ごめんな、からかったりして」
「兄さんは意地悪です」
「……実を言うと、緊張してるんだ。だから、おどけないと平静でいられないっていうか……そんな感じ」
「緊張してるんですか?」
「そりゃ、まあ」
今から向かうところを考えたら、普通に緊張する。
体がガチガチ。
右手右足を同時に出してしまいそうで、何も考えられなくなる。
「……私も緊張しています」
「やっぱり?」
「あんなところ、行ったことも近づいたこともないですし……に、兄さんと一緒ですから……あと、私の目的も……」
「目的?」
「あっ、いえ。それはなんでもないです。気にしないでください」
気になるが、藪をつついて蛇が出てこないとも限らない。
余計なことはしないようにした。
「じゃあ、行くか」
「……はい」
手を差し出して……
さきほどまでとは違う感情で、頬を赤く染めた結衣は、俺の手を握る。
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