162話 幕間
<第三者視点>
宗一と結衣のデートを少し離れたところから眺める小鳥遊はやては、妙な感覚を抱いていた。
宗一と結衣の関係に疑問を抱いた。
本当は付き合っていないのではないか?
そんな考えに至り、故に、彼氏がいるけれど告白をした。
二人の関係を改めて確かめるために、デートを見ている。
その感想は……
「……ふむ?」
はやては不思議そうに、首を傾げた。
宗一と結衣の間に、言葉にしづらい、妙な『間』があることは変わっていない。
恋人というのに、二人はどこか遠慮しているような感じを受けるのだ。
一言で言えば、『らしくない』。
疑惑は晴れていない。
晴れてはいないのだが……
「どうも、昨日までとは違うな」
宗一の態度に変化は見られない。
ただ、結衣は今までと違うように見えた。
今まで抑え込んでいたものを解放した、とでもいうべきか?
結衣の方から、ぐいぐいと宗一に迫っているように見えた。
うれしそうに笑い。
楽しそうな顔をして。
宗一と一緒に過ごすデートを満喫している。
「……ひょっとしたら、私は勘違いしていたのかもしれないな」
二人は恋人ではないと思った。
だから、まだ自分にもチャンスがあると思った。
はやてはそう考えたが……
そもそもの前提が違っていたのかもしれない。
宗一はよくわからないが……
結衣は、どこからどうみても、恋する乙女そのものだ。
その対象は、もちろん、宗一だ。
付き合っている、付き合っていないは、もはや関係ないのではないか?
結衣は、たくさんの想いを宗一に向けている。
それなのに、それをニセモノと断定することは……
「失敗……したかもしれぬな」
小鳥遊はやては、誰にも聞こえないくらい小さな声で、そうつぶやいた。
――――――――――
<第三者視点>
小鳥遊はやてのさらに後ろ……
明日香、凛、真白の三人が同じく宗一と結衣のデートを見守る。
二人のことが心配だ、というのは半分本音、半分建前だ。
単なる野次馬根性が混じっていることは否定できない。
「お兄ちゃんと結衣お姉ちゃん、らぶらぶだねー」
「いつも以上に見せつけないといけないし、がんばっている方じゃない?」
「おっと、結衣選手、攻めました! 宗一選手、タジタジです! 足にきていますよ、これは。試合が決まるのも時間の問題かもしれませんね」
「……凛ちゃん、なにそれ?」
「ちょっとヒマになってきたので、テンション上げて報道してみようかと」
「普通のテンションでお願いね」
「天道先輩にしてはまともなことをいいますね。もしかして、ニセモノ?」
「はははっ、よくぞ見破ったな! そう、私は……」
「二人共、静かにしないとダメだよ! お兄ちゃんと結衣お姉ちゃんのデートを邪魔したらいけないんだからねっ」
「「ごめんなさい」」
年下に叱られて、揃って謝る二人だった。
「うーん」
真白が悩むような声を漏らした。
「どうしたの?」
「今更な疑問なんだけど……なんで、二人はキスしないのかなー、って」
「それは……」
「なんでですかね?」
明日香と凛は回答を持たない。
「いつから付き合ってるんだっけ?」
「確か、春ですね。その頃に、恋人関係に進展したと結衣から聞いたので」
「なら、もう三ヶ月くらいかー。普通、キスくらいしてるよね?」
「まあ、あの二人は普通じゃないですし」
「だねー」
「そういう認識なのね……」
凛と真白の共通の認識に、明日香が苦笑した。
凛と真白が、キスするべきだ、いや、本人たちのペースに任せるべきだと論争を始める。
そんな二人を眺めながら、明日香は思う。
(……あたしとしては、進展がなくてうれしいんだけどね)
そう思い……直後、ため息をこぼした。
結衣のことはかわいく思っている。
妹みたいだ。
応援したいと素直に思う。
ただ……
同じ相手を好きになったこともあり、心の底から応援することはできない。
二人のデートを見守る、という名目でついてきたが……
明日香は、二人の関係がどうなるのか気になる、という理由が大きい。
応援すると言いながら、その実、焦っているのだ。
宗一の親友でありたい。
結衣の姉貴分でありたい。
そう思いならも、それに徹することができない。
今は、何事もないように仮面をつけているものの、それもいつまで保つか。
楽しそうにデートをする宗一と結衣を見ていると、明日香の心のどこかで、きしむ音が響く。
同時に、鈍い痛みが走る。
「ふぅ」
厄介な恋をしてしまったものだ。
明日香は自嘲気味に、二度目のため息をこぼした。
ブクマや評価が、毎日更新を続けるモチベーションになります。
少しでも「面白い」「続きが気になる」と思っていただけたら、
ブクマや評価をしていただけるとうれしいです。