160話 妹とデートをしよう進展編・3
<結衣視点>
このままでもいい……って。
もしかしてもしかしなくても、ついに、兄さんが私のことを求めて!?
ぎゅう、ってしたいよ、とか。
私の温もりを感じたいんだ、とか。
そんなことやあんなことを……!
兄さんが、そんな風に思ってくれるなんて……
感動しました!
兄さんがそう言うのなら……も、もうちょっと、くっついてもいいですよね?
これ以上となると、ホント、抱きしめる形になってしまいますが……
でもでも、それを望まれているんですから。
い、いいですよね?
もうちょっとくらい……
「恥ずかしいっちゃ恥ずかしいが、抱きつくだけならキスよりも簡単だからな」
「……ソウデスネ」
いつものオチが待ち受けていました。
照れているわけではなくて、必要だからしてるだけ。
まったくもう。
兄さんは、ホント兄さんですね!
どれだけ妹を期待させれば気が済むんですか?
それでもって、何度、底に落とせば気が済むんですか?
こんなこと、本来なら許されませんよ?
愛想をつかされても仕方ないんですからね?
とはいえ、そんなことはありませんけどね。
「……そろそろいいか」
「あ……」
5分くらい経ったところで、さすがに人目が気になってきたらしく、兄さんが離れてしまいました。
私は、ついつい、名残惜しそうな声を漏らしてしまいます。
「どうしたんだ?」
「いえ、その、あの……」
もうちょっと抱きついてもいいですか?
なんてこと言えるわけないじゃないですか!
察してください! 兄さん、ほら!
妹の心を読んでください!
「もしかして……」
「っ」
「トイレに行きたいのか?」
0点。
いえ、マイナスですね。
よりにもよって、お手洗いなんて……
「兄さん、バカなんですか?」
「えっ」
ついつい、素の声で問い詰めてしまいます。
「こんな場面で、その答えはないでしょう? バカなんですか? バカなんですか?」
「三回も言われた!?」
「三回も言わせないでください。まったく……デリカシーだけじゃなくて、その他諸々、色々と足りません。今度、修行し直してください」
「え、なんの修行?」
「乙女心について、です!」
「むぅ」
心当たりがあるらしく、兄さんは難しい顔になりました。
これで、ちょっとは察しがよくなってくれればいいんですが。
まあ、期待するだけ無駄のような気がします。兄さんですから。
我ながらひどいことを言ってる気もしますが、兄さんですから。
大事なことなので二回言いました。
それに、察しの良い兄さんというのは、それはそれで困るかもしれません。
素直になれない私の態度も見破って、私の本音を毎回言い当ててしまったり……
ひゃあああ……そ、そうなったら、恥ずかしくて死んでしまいそうですね。
やっぱり、兄さんは今のままでいいかもしれません。
「兄さんは、ほどよく鈍くいてくださいね?」
「よくわからんが、バカにされてないか?」
「してませんよ」
にっこりと笑顔を返しておきました。
――――――――――
本屋を後にして、ふらふらと歩きます。
時折、ちらりと後ろを見ます。
みんなの姿が少し離れたところにありました。
「私たち、どんなふうに見えているんでしょうね? ちゃんと恋人に見えているでしょうか?」
「今のところ、問題はないと思うが……どうだろうな。小鳥遊さん、あれでけっこう鋭いし」
「まあ、気にしても仕方ありませんね。できることをしていきましょう」
「結衣はメンタル強いな……」
「弱かったら、兄さんの恋人は務まりません」
「それ、どういう意味だ?」
「さあ、次行きますよ!」
「ごまかされてないか!?」
気にしたら負け、というヤツです。
なので、気にしないでください。
「兄さんは、希望はありますか?」
「そうだな……CDとかちょっと見てみたいな」
「なら、それにしましょう」
「そんな簡単に決めていいのか? 見栄えするというか、もっと考えた方がいいんじゃ……」
「いちいち考えていたら、その方が不自然ですよ。デート慣れしている、というところを見せないといけませんからね」
「なるほど」
本当は、兄さんと一緒にいられるならどこでもいい、というだけなんですけどね。
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