16話 妹はおこです
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
<結衣視点>
昼食を食べた後、再び店を見て回ることにしました。
おいしいごはんを食べて、兄さんにあーんをしてもらい、とても上機嫌……というわけにはいきません。
むしろ、逆です。
私はおこです。激おこです。
なんですか、最後のアレは。凛ちゃんに、あーん、をしてもらうなんて……! しかも、私の目の前で!
ああいうことは、私だけの特権なんですよ? 私だけが、兄さんにあーんをしてもいいんですよ? 兄さんは、そのことをわかっているんですか? いいえ、わかっていませんね。だから、あんなに簡単にあーんを許してしまうんです。
私だけが、兄さんにあーんをしてあげられるのに……うううっ、悔しいです!
それにしても、凛ちゃんは、どういうつもりであんなことをしたんでしょうか?
……も、もしかして、兄さんに気が?
ありえます。兄さんはとても素敵ですから、好きになっても不思議ではありません。むしろ、当たり前といえるでしょう。
きっと、凛ちゃんは兄さんに一目惚れをしてしまったのでしょう。わかります。そして、あふれる想いを抑えることができずに、あーんをしてしまったんでしょう。わかります。
まずいですね。
凛ちゃんは、同性の私から見ても、とても魅力的な女の子です。万が一、兄さんの心がなびいてしまうということも……なびきませんよね? 兄さんは、私の彼氏のままですよね? もしも、裏切るようなことをしたら……ふふふ。
っと。
いけません、思考が脇道に逸れてしまいました。
今は、凛ちゃんの対策を考えないといけません。
さて、どうしましょうか?
「……そうですね、そうしましょう」
少し考えて、私は、とある答えを導き出しました。
凛ちゃんが大胆な行動に出るなら、私も、大胆に対抗するまでです!
そして、兄さんの心を私で埋め尽くしてみせます!
待っていてくださいね、兄さん♪
――――――――――
「……しょう」
なにやら、ちょっと離れたところを歩いている結衣が、ぶつぶつとつぶやいている。とても真剣な顔をしていて、気軽に声をかけられないというか……ちょっと怖い。
やっぱり、さっきのことを気にしているのかな?
……食後に、『トイレに行っておかなくて平気か?』なんて言ったことで、怒っているのか?
後になって思ったが、デリカシーに欠ける発言だったな。彼氏としてだけじゃなくて、兄としてもまずいよな。結衣が怒っても仕方ない。
どうにかして、機嫌を直してもらいたいんだが……良い方法はないだろうか?
「兄さん」
「おわっ!?」
あれこれ考えていたら、いつの間にか結衣が真横に並んでいた。
「なんですか、おわ、って。そんな反応をするなんて、どういうことですか? 私のことが嫌いなんですか? 凛ちゃんの方が好きなんですか?」
「い、いや。考え事をしてたから驚いて……って、嫌いになるわけないだろう。というか、結衣が一番大事だ」
「……そうですか、私が一番ですか……」
「ど、どうした?」
「もう一度、言ってもらえますか?」
「結衣が一番だぞ?」
「……もう一度!」
「結衣が一番だ」
「私、もう悔いはありません。今、世界が滅亡したとしても、満足して逝けるでしょう。というか、もう逝ってしまいそうです……えへ」
「なんか、顔が赤いが……風邪か? 今日はここまでにしておくか?」
「兄さんはバカなんですか? ここで引き返すとか、ありえません。私の幸せな時間を……ごほん。作戦を放棄してどうするんですか。私なら大丈夫ですから、もっと甘い言葉をささやいてもらい堪能……ではなくて、このまま続けますよ」
「まあ、問題ないならいいけど……本当に大丈夫なんだな?」
じーっと結衣を見つめる。
顔色が悪くないか、呼吸が乱れていないか、そういうことを確かめるように、それはもう、じーっと見つめる。
「に、兄さん? いきなりどうしたんですか、そんなに見つめて……」
「いや、気にしないでくれ」
「き、気にしますよ。そんなに見つめられたら……うっ……私、兄さんに見つめられて……熱い視線が体に染み込むみたいで……ついに、兄さんが妹に目覚めてくれた……?」
よくわからないことを口にしてるが……まあ、体調が悪いわけじゃなさそうだ。安心した。
「って、すまん。じろじろ見つめるなんて、失礼だよな」
「いえ、構いませんよ。もっと、見つめてもいいですよ? というか、見つめてください。ほら、妹の命令ですよ。もっと私を見つめてください。じーっと視線を合わせて、そのまま……ふぁ」
「結衣? どうした?」
「いえっ、なんでもありません! 兄さんに視姦されたせいで、少々バグが発生したみたいですね。まったく、兄さんは本当にナイスプレー……ではなくて、失礼ですね。もう少し、妹に接する態度を考えた方がいいですよ? 具体的に言うと、もっと甘く、優しく、ガラス細工に接するように丁寧にしてください。それが、彼氏というものですよ」
「ど、努力してみる」
見つめろと言われたり、見つめるなと言われたり、妹の言うことについていけない。
「期待していますよ? ふふっ」
小さく笑う結衣が、ちょっとかわいい。
なんてことを考えていたら、フリに支障をきたしてしまいそうだ。
余計なことは考えないで、真剣に役に徹しないとな!
「安心してくれ。もう大丈夫だ。彼氏らしく、リードしてみせる」
「……そんなことを言われたら、本当に期待してしまいますよ?」
「任せてくれ」
「……さすが兄さんです、格好いいです」
結衣がうれしそうにしているような? いや、でも……そんなわけないか。俺、嫌われてるもんな。
フリをしているだけで、仕方なく一緒にいるだけで……やばい、改めて自覚したら凹んできたぞ。
でも、がんばらないとな。結衣のために、今日の仕事はやり遂げないと。
「先輩? 結衣? さっきから、二人でコソコソとどうしたんですか? 早く次の店に行きましょう?」
「そうだな。次は……」
「あっ。兄さん、凛ちゃん。私、行きたいところがあるんですが、付き合ってもらえますか?」
「俺は構わないぞ。凛ちゃんは?」
「ええ、私も構いません」
結衣のことだから、良い作戦を思いついたのだろう。結衣に任せておけば、うまい具合に、凛ちゃんに対して恋人というアピールができるはずだ。
全部、任せきりになってしまうのは申しわけないが……こういうことは、俺、からきしだからなあ。
せめて、ちゃんと作戦が成功するように、結衣の要望にはなんでも従うようにしよう。
……なんてことを思っていたんだけど、それは間違いだったかもしれない。
「それで、行きたいところっていうのは?」
「はい。ランジェリーショップです♪」
結衣は、満面の笑みでそう言った。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
いくつか指摘をいただいているのですが、妹がやんできたような……?
最初はそんな予定はなかったのですが、なぜかこんなことに。
ただ、そういう展開にはならない……はずです。
これからもよろしくお願いします。