158話 妹とデートをしよう進展編・1
いよいよデート開始。
ということで、電車に乗り、ショッピングセンター『セントラルシティ』にやってきた。
最初は映画館や遊園地などを候補に挙げたんだけど、今回のデートの目的は、俺と結衣の仲を見せつけることだ。
映画館では何もできないし、遊園地では人混みが多すぎて、ついてくる方が困る。
なので、妥当なショッピングセンターになった、というわけだ。
「いつ来ても、大きいですね。人もたくさんですし」
「まあ、県内一だからな」
「都会でもないのに、こんなものが近くにあるなんて、不思議な気分ですね」
「それはちょっとわかるかもな」
「ふふっ、私たち、同じことを考えているんですね。うれしいです」
結衣が笑う。
緊張はしていないみたいだ。
むしろ、楽しんでる?
我が妹ながら、度胸があるというか大胆不敵というか……
結衣の新しい一面を知ったような気がした。
恋人のフリをするようになって、仲良くなることができて……
こういうところを少しずつ知ることができている。
それは、とてもうれしいことのように思えた。
「しかし……」
「どうしたんですか、兄さん? 微妙な顔をして」
「なんか、尾行されてるみたいで落ち着かなくて」
ちらりと後ろを見ると、少し離れたところに小鳥遊さんが。
さらにその後ろに、明日香、凛ちゃん、真白ちゃんの三人組。
付かず離れずの距離を保ち、ものすごく気になる。
「結衣は気にならないのか?」
「少しは。でも、兄さんほどじゃないですよ」
「メンタル強いな」
「兄さんが気にしすぎなだけなんですよ」
「そうか?」
「デートを楽しもう、と思えば、自然と気にならなくなりますよ」
「それが第一目的とはいえ、なかなか……」
いつか凛ちゃんと一緒したように、すぐ傍にいれば気にならないんだが……
「兄さんっ」
結衣は前に回り込むと、頬を膨らませた。
ビシッと指を突きつけてくる。
「今日は、私とのデートのことだけを考えてください。それ以外のことはNGです」
「と、言われてもな……」
「私たちは、い、イチャイチャしないといけないんですよ? そんな調子で、うまくできるんですか?」
「うっ」
「もう……兄さんは本番に弱いですね。ヘタレですね。やれやれです」
「そ、そこまで言うか?」
「言われたくないなら、かっこいいところを見せてください。……まぁ、そのままでも十分にかっこいいんですけど」
「そうなのか?」
「そ、そそそ、そんなわけないでしょうっ!? お世辞ですっ、お世辞! 兄さんにやる気を出させるために、仕方なく言っただけですよ! 兄さんがっこいいとか、そんなことありえるわけないじゃないですか! 兄さんはダメです、ダメダメですっ、最底辺なんですからね!?」
そこまで言わなくても……
やばい、これからデートだっていうのに、ガチで凹んできた……
そんな俺を見て、やりすぎたと思ったのか、結衣が慌てる。
「あっ、いえ……かっこいい時もありますよ?」
「どんな時?」
「えっと、その……い、いつも……ではなくて! その……料理を作る時、とか?」
「主夫かよ!」
「え?」
「違うんですか? みたいな反応はやめてくれないか!?」
「え?」
「冗談じゃないですよ、みたいな反応もやめてくれ!」
妹にいじられる兄……
威厳ってものがまるでない。
泣けてきた。
「ったく……」
俺、ホントに嫌われてないんだよな?
こうしてからかわれていると、以前の結衣の言葉を疑ってしまうんだが……
「兄さん」
「……なんだよ」
「まだ、色々と気になりますか?」
「……そういえば」
あれこれと気にしていたことがウソみたいに、頭の中のモヤが晴れていた。
なんていうか、感情のパラメーターが一定のところを過ぎたせいで、細かいことを気にすることがなくなったというか……
まあいいか、と余裕を持つことができた。
もしかして、結衣はこのために……?
「どうしたんですか?」
結衣を見ると、私は何も知りません、みたいな顔をされた。
とぼけてるのか、素でしたことなのか……
「ありがとな」
「わっ、な、なんですか?」
どちらにしろ、結衣に感謝だ。
ぽんぽんと、頭を撫でる。
「やっ、だめ……兄さん、これ、恥ずかしいですよ」
「いいじゃないか、頭を撫でるくらい」
「だから、どうしてそんなことを……はぅ」
なで続けると、結衣の目がとろんとなってきた。
アレだ。
犬が気持ちよさそうにする、そんな感じのアレ。
「……兄さんはえっちですね」
「ただ、頭を撫でてるだけなんだけど……」
「女の子にそんなことをしたら、普通、嫌がられますよ」
「嫌なのか?」
「嫌ですね」
「うぐっ」
「でも……見せつけることが目的ですからね。し、仕方ないから、もうちょっと、このまま続けてもいいですよ? 仕方なく、ですからね? 勘違いしないでくださいよ?」
「わかってるって」
「むぅ……わかってませんよ、その顔は」
なぜかふくれる結衣だった。
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