157話 妹の長い一日の始まり
<宗一視点>
流れるように時間が過ぎて、日曜日が訪れた。
決戦の時だ。
言葉はおかしいかもしれないが、しっかりとデートをして、俺たちの関係を小鳥遊さんに理解してもらわないと。
そう思うのだが……
「……うーん」
本当にこれでいいのか?
そんなことを考えてしまう。
同性に恋をするなんて無茶苦茶なこと、納得できるわけがないが……
でも、小鳥遊さんは真剣だ。
それなのに、俺は『フリ』を続けていいのだろうか?
小鳥遊さんを騙していいものか?
以前に小鳥遊さんの想いを聞いてから、そんなことを考えるようになっていた。
「兄さん?」
隣を歩く結衣が、怪訝そうにこちらを見た。
「どうしたんですか、難しい顔をして」
「あー……ちょっと緊張して」
「そうなんですか。兄さんなのに?」
「おいまて。それはどういう意味だ?」
「兄さんだから、の一言で説明できますよね」
「扱いがひどい!?」
「兄さんなので」
「なんでもその一言で済ませようと思ってないか!?」
「兄さんなので」
「おいいいぃっ!!!?」
「ふふっ、冗談ですよ」
妹が小悪魔に見える……
明日香の霊が乗り移ったか? なんてことを思うくらいだ。
「あまり緊張しないでくださいね? 意識すると、ボロが出ますよ」
「なんか、結衣は落ち着いてるな」
「……まあ、デートよりも、他に大事なことがあるので」
「他に?」
「あっ、なんでもありません。気にしないでください」
話を打ち切られてしまった。
気になるが……
話を終わらせたということは、たぶん、聞かれたくないことなんだろう。
無理に聞き出すようなことはやめておこう。
そう判断して、次の話題に移る。
駅前に向かいながら、今日の予定を頭に並べた
「兄さん。今日の作戦、覚えてますか?」
「忘れてないよ」
「本当ですか?」
「つい、この前話したばかりだろ? 大丈夫だって」
「兄さんが難しい顔をしてるから、てっきり、忘れたんじゃないか、って思っちゃいました」
「あー……そのことは別だから、大丈夫」
「別?」
「おっ、もうみんな揃ってるな」
ちょうどいいタイミングで駅前についた。
この話題は、これ以上つっこまれたくなかったので、本当に良いタイミングだ。
駅前の広場には、まず、小鳥遊さんがいた。
私服は初めて見るが、ショートパンツスタイルで、どことなくボーイッシュな感じがする。
女の子を好きになる女の子だから、そんなスタイルになるんだろうか?
他に、明日香、凛ちゃん、真白ちゃんがいた。
その三人にジト目を向ける。
「やっぱり、三人も来たのか……」
「当たり前でしょ? 宗一の男前なところ、見せてもらうから、くふふっ♪」
「こんなにおもしろそうなイベント、見逃すなんてもったいない」
「私も応援するからね!」
一人を除いて、動機がとんでもなく不純だった。
応援するんじゃなくて、ただ単に楽しみたいだけだろう。
まったく……とため息をこぼすものの、追い返す気にはなれない。
みんながいることで、なんだかんだで、ちょっとは気が楽になるからな。
いつもの日常の雰囲気を感じることができて……
必要以上にデートに意識をとられないで済む。
そういう意味では、わざわざ様子を見に来てくれたことに感謝だ。
「他人のデートを覗き見するのって楽しそうよね」
「それが先輩のものになるとなおさらですね」
「デートだからって、かっこつけたりするのかしら? ぷぷっ、想像したら笑えてきた」
「そんな場面を見たら、指さして笑ってあげましょう」
訂正。
やっぱり、明日香と凛ちゃんはいらないかもしれない。
「宗一先輩、結衣さん、おはよう」
外野は気にしてない様子で、こちらに気づいた小鳥遊さんは、晴れ晴れとした笑顔を向けてきた。
恋敵に向けるような表情じゃない。
この子は、どんな相手にも気持ちよく挨拶ができるんだろうな。
そんな小鳥遊さんのことを騙さないといけないのか……
こんなことを考えたらいけないのに、ますます迷いが強くなってしまう。
「おはよう」
「おはようございます」
「今日は良い天気だな。デート日和というやつだ」
「小鳥遊さんがそれを言うか?」
「む? 言われてみればそうだな。私がデートをするわけではないからな。しかし、今日デートが行われないと、二人の関係を確かめることはできないから……やはり、晴れてよかった、というべきか?」
おもしろい子だ。
ライバル関係でなければ、良い友だちになれたかもしれない。
「えっと、じゃあ確認だけど……今日、俺と結衣はデートをするから、小鳥遊さんはそれを見て、俺たちの関係がどういうものか判断してほしい」
「私たちはいつもと同じように、変わらず、普通に過ごします。ありのまま……っていうと、ちょっと恥ずかしいですね……まあ、普段の私たち、恋人らしいところを見せますね」
「うむ、しっかりとこの目で確認させてもらうぞ!」
……こうして、波乱の一日が始まった。
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