156話 妹はシチュエーションを考えます
<結衣視点>
チラチラと兄さんの顔を見ます。
相変わらずかっこいい……ではなくて。
今度、兄さんに告白するんですよね……
あぅ。
決意したせいか、妙に恥ずかしくなってしまいます。
顔を見ているだけで、頬が赤くなってしまいそうです。
胸がぽかぽかしてきて、妙な熱が体中を駆け巡り……
とろけるような、甘い痺れが走ります。
「結衣?」
「ひゃい!?」
「なんか変だぞ?」
「そ、そそそ、そんなことありませんよ? ええ、ありませんとも!」
「いや、でも……」
「私は普通です! そうですよね!? ね!?」
「あ、ああ……普通だな」
力技で押し切りました。
さすがの兄さんも不審に思っているみたいですが、これ以上の追求はありません。
よかったです。
うっかりか何かで、私の本心を漏らしてしまったら……
とんでもないことになってしまいますからね。
そんなことになったら、兄さんと一緒に過ごすことができません。
顔をまともに見ることができません。
漫画などであるような、不意打ちの告白なんて、私には向いていませんからね。
できるだけ、じっくりと作戦を練らないといけません。
先輩のことだったり兄さんのことだったり……
最近になって、色々とやらないといけないことが増えました。
なんでしょうね?
運命?
「兄さん」
「うん?」
「私……絶対に、想いを届けてみせますからね!」
――――――――――
家に帰り、自室へ。
制服を脱いで、私服に着替えます。
椅子に座り、机に向き合い……
「……はぁ」
ため息を一つ。
兄さんに告白する決意を固めました。
そのことを考えると、ドキドキして、落ち着かなくなって、無意味に恥ずかしくなって……
わーーー、と叫んでしまいたい気分になります。
でも、やっぱりやめる、という選択肢はありません。
ただの兄妹という関係は心地よくて、何も問題はありません。
でも、言い換えれば、何も進展がない。
私は……彼氏彼女のフリをやめたいです。
フリではなくて、本物になりたいです。
ずっと、ずっと願ってきたこと……
そろそろ、そのために、一歩を踏み出さないといけません。
色々な人と関わることで、そう思うようになりました。
なので、その件に関しては迷いはないのですが……
「どんな感じに告白すればいいんでしょう……?」
相手は兄さんです。
鈍感に鈍感を極めたような、そんな兄さんです。
我ながらひどいことを言ってるような気がしますが……
でも、事実ですからね。しょうがないです。
そんな兄さんに、どうしたら、私の想いを知ってもらえるか?
普通に『好きです』と告白しても、『俺も好きだぞ』とか返されるに違いありません。
ラブをライクと勝手に変換してしまうくらい、兄さんにとって朝飯前のはずです。
一世一代の告白。
誤解なんてされたら、立ち直れないかもしれません。
そんなことにならないように、しっかりと想いを伝えないと!
「やっぱり……告白はデートの最後ですよね」
できることならば、先輩の問題が片付いた後で。
一度に二つの問題を抱えるなんてこと、できませんからね。
デートに関しては、昨日、兄さんとアレコレ話し合ったので、たぶん、大丈夫なはず。
作戦通りに進めば、デートが終わる頃は、先輩は私たちの関係を認めているでしょう。
なら、勝負はその後。
「家に帰ってからでは、雰囲気も何もあったものじゃないですし……やっぱり、帰る途中ですね。夕方か夜……雰囲気は悪くないはずです」
夕暮れの公園とか……夜の光で飾られた街中とか……
そういうところで兄さんに告白をします。
「……うん、悪くない気がします」
場所は決まりました。
あとは、告白のセリフです。
「兄さんは鈍感ですからね……大事なことなので、改めて口にしました。なので、ストレートに言わないと」
なおかつ、誤解されないようにわかりやすく。
やっぱり……『愛してます』でしょうか?
でもでも、まだ学生なのに愛してる、はちょっと重いような……?
とはいえ、好きです、では気づいてもらえない気がしますし……
ならいっそのこと、明日香さんが言ってたように、き、ききき……キスをしてしまうとか!!!?
「ひゃあ、ひゃあああ……!!!?」
その時を想像して、私は赤くなった顔を机にゴンゴンと叩きつけてしまいます。
そんな感じで、あれこれと妄想……もとい、想像しつつ、告白のシチュエーションを、頭の中で整えていくのでした。