154話 妹には話すことができない隠し事
話が終わり、小鳥遊さんと別れた。
「小鳥遊さん……か」
女の子に恋する女の子。
おかしな子。
だけど、とてもまっすぐな想いを抱えている子。
彼女と話をしたことで、俺の中でとある迷いが出てきた。
「……このままフリを続けていいのかな?」
小鳥遊さんの方がふさわしいとか、そんなことは思っていない。
どれだけ想いが純粋であろうと、小鳥遊さんは女の子なわけで……
さすがに、結衣を任せることはできない。
ただ……
彼女に対して、俺は隠し事をしている。
本当の彼氏彼女じゃないという、隠し事をしている。
フェアじゃないような気がした。
小鳥遊さんは、まっすぐにぶつかってきた。
なら、恋人のフリなんて隠れ蓑を使わないで、こちらも真剣に向き合うべきでは?
ちゃんと、結衣が断るべきでは?
俺が関わっていいものか……
「兄さん」
「……」
「兄さん?」
「……」
「むぅ……兄さんっ!」
「うぉ!? ゆ、結衣?」
突然、ふくれっ面の結衣が視界に飛び込んできた。
我に返り、飛び上がるくらい驚いてしまう。
「ぼーっとしてどうしたんですか?」
「ああ、いや。ちょっと考え事をしてて」
「それって、先輩の?」
「まあ、そんなとこ」
まだ俺の中で結論は出ていない。
今、考えていたことは口にしないことにした。
「なんで結衣が?」
「もうっ、兄さんを待っていたに決まってるじゃないですか」
「そうなのか?」
「そうですよ。べ、別に、兄さんと一緒に帰りたいわけじゃなくて、いつも一緒にいたいわけでもなくて……そ、そう! 先輩との話が気になってたから、待っていたんですよ! それだけですからね!?」
「ああ、そういう」
「あっさり納得されました……むぅ、もうちょっと、私の言葉を疑ってくれてもいいんですよ? 裏の感情を読んでください」
感情を読めと言われても……
俺は平凡な高校生であって、超能力者じゃないんだぞ?
「それで、どうだったんですか?」
「うーん……結衣に対する想いを語られた」
これくらいは言ってもいいだろう。
「私は本気で結衣さんが好きなんだ……とか、そんな感じ」
「そ、そうですか」
「照れてる?」
「それは、まあ……」
結衣は、ちょっとだけ頬を染めていた。
「先輩は女の子ですけど……好きと言われたら、色々と思うところはあるじゃないですか」
「だよな」
「まあ、その想いに応えることはできませんけど」
ふと思う。
結衣は彼氏を作らないんだろうか?
俺のようなニセモノじゃなくて、本物の彼氏。
そうすれば、この問題は一発で解決なんだけど……
「なあ、結衣」
「なんですか?」
「この前、好きな人がいるって言ったよな?」
「ふぇ!?」
ビクッ、と結衣の体が震えた。
口をぱくぱくとさせて、さらに顔が赤くなる。
なんだ?
どうして、そこまで驚いているんだ?
「そ、それは、まあ……一応、いますけど」
「そいつに告白しないのか?」
「こくっ!!!?」
ニワトリがしゃっくりをしたような声がこぼれた。
だから、なんでそこまで驚いているんだ?
もしかして、結衣の相手もおかしなヤツなのか……?
同性……もしくは、人ですらないとか。
「兄さん、変なことを考えてませんか?」
「なんでわかった!?」
「兄さんはわかりやすいですから」
マジか。
ポーカーフェイスのクールな男を目指したいのに。
「私も、兄さんくらいわかりやすい妹だったら……はぁ」
なぜか結衣が落ち込んでいた。
「告白は、その……き、機会があれば」
「するつもりはあるのか?」
「それは……まあ」
「そっか」
「どうして、そんなことを?」
「んー……なんとなく気になっただけだ」
俺自身、まだ自分の考えをうまくまとめられていない。
結衣の問いかけに、適当な返事をするのだった。