153話 妹に恋する女の子の事情
「すまないな、わざわざ」
「別にいいよ」
「うむ。そう言ってもらえると助かる」
この子、尊大な喋り方だよな。
どことなく偉そうでもある。
それでも、嫌な感じがしないのは、本人の人柄によるものか。
悪い子じゃないことはわかる。
そんな子が、なんで結衣に? と思わないでもない。
口調以外は、わりと普通の子に見えるんだけど。
「結衣の前ではできない話か……それとも、俺個人に話したいことが?」
「後者だ。宗一先輩は察しがいいな」
日頃、結衣に鈍い鈍い言われてるけどな!
「実は、私のことを話しておこうと思ってな」
「小鳥遊さんの?」
「どうして結衣さんに告白したか……気になっているのではないか?」
まさに今、そのことを考えていた。
「傍目に見ておかしなことだからな。同性に告白するなんて」
「自覚はあるんだ」
「私は変人ではあるが、非常識ではないぞ」
変人って自覚してるのかよ。
まあ、変わり者であることは否定できないが。
「どうして、そんなことを俺に?」
「宗一先輩は、いわばライバルだからな。正々堂々と挑みたいというか、まっすぐな気持ちで向き合いたいというか……いや、自己満足みたいなものだな。これから勝負をするにあたり、私のことを理解しておいて欲しいという願望によるものだ。曲解されたり妙に偏った思考を持たれても困るのだ」
「わからないでもないけど……」
とはいえ、わざわざ自分のことを話そうとするなんて。
下手したら、相手に余計な情報を与えることになる。
小鳥遊さんも言ったけど、自己満足でしかない。
でも……
自己満足と自覚しながらも、実行しようとする小鳥遊さんには、好感が持てた。
とてもまっすぐな性格をしているんだろう。
まあ、だからといって、結衣を任せるつもりにはなれないけどな。
「私は、少々おかしい子みたいでな」
「おかしい、って……」
これまた、ストレートに言うな。
自分で自分のことをおかしい、って言う子、初めて見たぞ。
「初恋は保育園の頃。いつも明るくて優しい保母さんだった」
「子供の頃からなのか」
「ちなみに、巨乳だ」
「その情報いるの!?」
「彼氏なしということを聞いていたから、いけると思い告白した」
「子供なのに打算的すぎない!?」
ませている、なんて言葉じゃ済まされないぞ。
小鳥遊さん、いったい、どういう幼少期を過ごしてきたのやら。俄然、気になってきた。
「当然、断られた。というか、相手にされなかった。子供故の幼い言葉、本気と受け取ってもらうことはできなかった」
「それは……ちょっと辛いな」
「同情してくれるのか?」
「まるで相手にされないのは、きついだろ。って、気軽に同情なんてされたくないかもしれないけどさ」
「いや、同情されることはうれしいぞ。同情が悪いことのように言われがちな世ではあるが、そんなことはない。同情するということは、相手の気持ちになって思いやるということだ。優しいことだと私は思う。宗一先輩は優しいのだな」
よくわからないが、小鳥遊さんの好感度が上がった。
この子は、なんというか……
犬みたいだな。
なんとなく、そんな印象を受けた。
「おっと、話が逸れたな。で、それが私の初恋で……その後も、何度か恋をしたが、いずれも女の子だった。どうも、私は男を恋愛対象として見ることができないらしい」
「それって……心の病気の?」
「いや、それとはまた違うらしい。私は自分が女であることに違和感を覚えてない。ただ単に、女の子が好きな女というだけなのだ!」
ロクでもないことを胸を張って言われた!?
訂正。
やっぱり、小鳥遊さんはおかしい子なのかもしれない。
「おかしい子、と思ったか?」
「まあね」
「正直な人だな、宗一先輩は。だが、そういうところは嫌いではないぞ」
「そりゃどうも」
「で……私も、一応、常識を持ち合わせているからな。自分がおかしいことは理解してる。だから、高校に進学するにあたり、同性に告白するのはやめることにしたんだ。いつまでもこんなことをしていては、親に心配をかけてしまうかもしれないからな」
「なら、結衣のことは?」
「うむ……やめようと思っていたのだが、結衣さんを見た途端、雷に撃たれたような衝撃が走ったのだ。一目惚れというヤツだな」
「マジか」
「マジだ」
女の子が女の子に一目惚れ。
そんな話、リアルで起きるなんて。
薄い本の中だけの話かと思っていたぞ。
「私は決めた。この恋を、人生最後の恋愛にしよう……と。女の子を好きになるのは、これが正真正銘、ラスト。全力で打ち込んでみることにした」
「そこまで……」
「宗一先輩から見たらおかしいことなのだろうが……それくらい、結衣さんのことが好きなんだ。おかしいと笑うか?」
「笑わない」
そりゃ、傍から見れば小鳥遊さんの行動は異常だ。
女の子が女の子に恋するなんて、ありえない。
引かれたとしても文句は言えない。
でも、小鳥遊さんは、まっすぐな想いを持っていた。
それは、とても純粋なものだ。
間違っていたとしても……それを笑うことなんて、できるわけがない。
「ありがとう。そう言ってくれて、とてもうれしい。宗一先輩が女ならば、惚れていたかもしれないな」
「それ、褒め言葉なのか?」
「最上級だぞ」
やっぱり、おかしい子だ。
でも……良い子ではある。
「突然、このような話をしてすまなかった。宗一先輩はライバルだからな。私が本気であることを、知っておいてほしかったんだ」