15話 妹はあーんを希望します
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
いくつか店を見て回り、気がついたら、時計の針は12時を指していた。
「そろそろ昼にするか?」
「はい、そうですね」
「フードコートでいいか?」
「先輩に任せます」
というわけで、フードコートに移動した。レストラン街もあるんだけど、そっちは学生にはちょっと厳しい値段設定だからな……うぅ、甲斐性のなさが恨めしい。
俺にもっと財力があれば、妹に良い飯を食わせてやれることができるのに。
「二人は席を確保してくれるか? 俺、買ってくるからさ」
「そうですね、お願いしてもいいですか?」
「なにがいい? 牛丼か? それとも、ハンバーガー?」
「兄さん……女の子相手に、その選択はありえませんよ」
「そ、そうか」
呆れをたぶんに含んだ目を向けられてしまった。
演技ではないガチの冷たい視線だ。
確かに、牛丼やハンバーガーはないか。そばならアリか?
「そこのパスタをいただきましょう。凛ちゃんも、それでいいですか?」
「ええ。私は、量さえあればなんでも構わないわ」
「じゃあ、私はミートソースでお願いします」
「私はカルボナーラ、大盛りで」
「はいよ」
二人と別れて、店の列に並ぶ。
俺は……そうだな、イカスミパスタにするか。
「ミートソースとイカスミパスタ、普通で。あと、カルボナーラの大盛りをください」
「はい、かしこまりました。少々お待ちください」
5分ほど待ち、三人分のパスタを受け取る。
そのまま席に移動して……
「兄さん、こっちですよ」
結衣が手を振っているのが見えて、そちらに移動した。
テーブルの上にパスタを置いて、凛ちゃんの隣に……げしっ!
「……兄さん。どうして、凛ちゃんの隣に座ろうとしているんですか? なにをしているんですか? バカなんですか?」
小声だけど、おもいきりドスの効いた声ですごまれた。ウチの妹、超怖い。
「え? え? な、なにかまずかったか?」
「こういう時は、彼女の隣に座るべきでしょう。それくらい、普通に考えてわかるでしょう? なんで、それくらいもわからないんですか? 頭、空っぽなんですか?」
「す、すまん」
「まったく……ほら、兄さんは私の隣ですよ」
「そ、そうだな。改めて、すまん……どうも、こういうことは疎くて」
「疎いのレベルじゃないと思いますが……でも、そういう兄さんも、純粋、っていう気がしてかわいらしくて……いえっ、なんでもありません」
とにかくも、改めて結衣の隣に座る。
それから、みんなで唱和。
「「「いただきます」」」
さっそく、パスタを食べる。
「うんっ、うまいな!」
「あっ、本当です。とてもおいしいですね」
「フードコートのレベルとは思えないわね。これなら、普通に良いところで店を出せるんじゃないかしら?」
みんな、パスタに夢中になる。
「……」
ふと、結衣がこちらを見ていることに気づいた。
チラチラと、俺の顔とイカスミパスタを交互に見ている。
「もしかして、欲しいのか?」
「あっ……その、どんな味がするのかな、と思いまして。すみません……なんか、意地汚くて……幻滅しましたか?」
「そんな大げさな。それくらい、誰だってよくするだろう? なんなら、一口食べてみるか?」
「いいんですか? なら……食べさせてもらってもいいですか?」
あーんと、雛鳥のように結衣は小さな口を開けた。
それが意味するところは、まあ、そういうことだよな?
「ゆ、結衣? こんなところで……」
「……本来の目的を忘れたんですか? 今こそ、チャンス……ではなくて、イチャイチャして、見せつける時ですよ?」
小声でささやかれた。
そうだ。今日の目的は、恋人らしくイチャイチャして、凛ちゃんの疑惑を晴らすこと。ならば、これは、その絶好の機会じゃないか?
妹相手に、あーんをするなんて……恥ずかしくてたまらないが、やるしかない!
「ほら、早くしてください、兄さん……あーん」
「えっと……ほいっ」
「あむっ……んっ、ふぁ」
あーん、をしてやると、結衣は表情をとろけさせて、ブルブルと全身を震わせた。
「ど、どうしたっ!?」
「いえ……あまりの衝撃に、ちょっと昇天してしまいそうに……えへ」
そこまで!?
もしかして、俺のあーんがイヤだったのか……? だとしたら、マジでショックだ……がくり。
「結衣と先輩は仲が良いのね」
「ええ、恋人ですからね。まあ、不肖の彼氏ですが」
いちいち、俺の悪口を言わないと気が済まないのか?
お願いだから、やめてくれ。俺のHPがガシガシと削られていくから。
妹に嫌われる兄って、かなり辛いんだぞ。
「先輩」
「ん?」
「あーん」
「んぐっ!?」
なぜか、凛ちゃんに、あーんをされてしまう。不意打ちで避けることができず、ぱくりとパスタを咥えてしまう。
「どうですか?」
「お、おいしいよ。でも、どうして……?」
「なんとなく、ですよ。ふふっ」
「むぅ……」
涼しげな顔をする凛ちゃんとは対称的に、結衣は不機嫌そうに……というよりは、縄張り争いをする猫のような感じで、頬を膨らませた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
王道のあーん、の回です。
主人公がしてもらうシーンは前にありましたが、
妹はまだだった、と思い書きました。
次もお付き合いいただけたら幸いです。