148話 妹は進展を望みます
<結衣視点>
兄さんとキス。
「あわわわ」
想像しただけで顔が赤くなってしまいます。
頭がふっとーしちゃいそー、というやつです。
でもでも、いつかは……
「結衣?」
「ひゃいっ!?」
自分の世界に入りこんでいたらしく、兄さんが不思議そうな顔をしてました。
「な、なんでもありませんよ!? そ、想像なんてしていませんからね!?」
「……してたのか?」
「してませんっ!!!」
今日の兄さんは、やけに鋭いですね……
いつもなら、これでごまかされてくれるのに。
まったく、兄さんは鈍くないと兄さんとは言えないんですよ。
もっと鈍くあってください。
あっ、でもでも、私の気持ちには敏感であってくださいね?
そんな複雑な乙女心な気分です。
「えっと……話を戻して、キスのことですよね」
「明日香の無茶振りは慣れたけど、さすがにキスは……なあ?」
兄さんは、抵抗ある感じを見せます。
なんですか?
そんなに私とキスしたくないんですか?
いいじゃないですか、キス。
恥ずかしいですけど、兄さんが望むなら、いくらでもしちゃいますよ?
訂正、私がしたいです。
とはいえ、やっぱり恥ずかしいわけで……
「あぅ」
顔が赤くなってしまい、それを隠すように視線を落としてしまいます。
「やっぱ、イヤだよな」
「い、イヤというか、その……は……恥ずかしいです」
「なら、やめておくか」
「えっ」
「え?」
あっさりと引き下がる兄さんに、ついつい声をあげてしまいます。
もっとこう、何かないんですか?
少しは食い下がるとか、残念そうにするとか……
未練が皆無だと、それはそれで複雑な気分になるんですが。
「そ、それでどうするつもりなんですか? 他に良い案が?」
「……ないな」
「なら、簡単に諦めないで、もっと考えるべきでは? 兄さんがどうしてもというのなら、その……き、キスをしても……」
「いや、それはまずいだろ」
なぜか、きっぱりと拒否する兄さん。
まるで私に気がないように見えて、凹みます。
妹を凹ませて楽しいんですか?
兄さん、意地悪です。
「何がいけないんですか?」
「だって、そういうのは好きな人とするべきだろ?」
ピュアですか!
あと、私が好きな人は兄さんなんですよ!
ついつい、心の中でツッコミをいれます。
「それはまあ、そうかもしれませんが、でも、解決できませんよ?」
「それなんだよなあ……」
「こういう時は、その……しても……」
「あ、そうだ。頬とかならセーフか?」
「頬にキス……」
物語にあるような感じで、兄さんが優しく私の頬に唇を……
……それはそれでアリですね。
兄さんが頬にキスをして、耳元で甘い言葉をささやくんです。
次は唇だよ、とか。
きゃあきゃあ!
兄さん、大胆です!
そんなことされたら、私、どうにかなってしまいますよ!
兄さんのえっち!
「結衣?」
「はっ……い、いえ。なんでもありません。ありませんにょ?」
「なんか、最近の結衣、挙動不審になること多いよな」
誰のせいですか!
全部全部、兄さんのせいですよ。
もうっ。
少しは妹心を理解してください。勉強してください。
そのうち、愛想を尽かして……いえ、そんなことはありえないんですけどね?
でもでも……ちょっとは、拗ねてしまいますよ。
ぷくー。
「えっと……兄さんは、深く考えすぎじゃないですか? ただのキスです。唇と唇を重ねるだけ。大したことありませんよ」
「そ、そうか?」
「ええ、そうですとも。なんてことありませんとも」
「結衣は気にしないのか?」
「はい」
「……誰とでもキスできるのか?」
「いいえ」
「あれ!?」
誰とでもできるわけないじゃないです。
兄さんとだけですよ。
私の唇は、兄さん専用なんです。
「……ねえ、兄さん」
「うん?」
「そんなにいうのなら……試しに、キス……してみますか?」