146話 妹としなければいけないこと
「ちょっ……!?」
いきなり何を言い出すんだ、このノリと勢いだけで生きてる幼馴染は!?
「いきなり何を言い出すんですか、ノリと勢いだけで発言してません!?」
心の中で思っていることと、同じようなことを結衣が口にする。
この辺り、兄妹なのかもしれない。
そう。血は繋がっていなくても、俺たちは兄妹なんだ。
そんな俺たちがキスするなんて……あれ? 特に問題なし?
というか、フリとはいえ恋人関係だから、むしろ推奨されるべき?
あああ、ちょっと待て!
本格的に混乱してきた。
さっき、真白ちゃんに同じことを言われたばかりなのに、こんなに焦るなんて……
俺、余裕なさすぎ!
でも、仕方ないだろ?
経験がないからな!
……堂々と言うことじゃないな。
自分で自分にダメージを与えてしまった。
「なんでそんな結論になるんだ?」
「宗一と結衣ちゃんが、いつまでたっても進展しないのがいけないのよ」
「だからって、急展開すぎないか?」
「普通でしょ。付き合って数ヶ月、キスしてない方がおかしくない?」
そう言われると何も返せない。
「あのぉ」
結衣が不思議そうに尋ねる。
「そんなことを言って、明日香さん的に問題はないんですか?」
「ん? どうして?」
「いえ、だって……一応、私たちはライバルであって……私と兄さんが、き、き……キス……をしてしまうと、明日香さんは困るのでは?」
「そうね。宗一のファーストキスがもらえないのは、ちょっと残念かも」
俺のファーストキスとか言うな。
男に例えると、途端にロマンがなくなるだろうが。
「まあ、そこまで強いこだわりがあるわけじゃないから。宗一が中古でも、あたしはかまわないわよ」
「中古言うな」
「最後はあたしのところに戻ってくればいいの。そうしたら、弱点でも握って体も心もがんじがらめにして、二度と離さないから」
「良いこと言ってるように見えて、中身最低だからな」
この幼馴染は、俺のことをなんだと思ってるのか?
人権という言葉を教えてやりたい。
「あたしのことはいいの。問題は、宗一と結衣ちゃんのことよ」
「それは」
「まあ」
結衣と顔を見合わせる。
直視できなくて、互いに顔を逸らしてしまう。
結衣とキス?
そんなこと……
ついつい想像してしまい、恥ずかしいやら気まずいやら、複雑な感情に襲われる。
「未だに何もしてないから、小鳥遊さんみたいな子につけこまれそうになったりするのよ。なら、ここらで二人の関係をステップアップさせて、付け入る隙がないところを見せつけないと」
「わからないでもないが……それで、キスなのか?」
「キスだけじゃ足りない? なら、エッチもする?」
「エっ……!!!?」
結衣が、ぼんっ、と顔を赤くした。
しゅううう、と湯気が出てしまいそうな勢いだ。
「結衣、大丈夫? そんなに恥ずかしがっていると、経験がないことがバレてしまうわよ」
「そ、そそそ、そんなこと言わないでください!」
さっそく、凛ちゃんにいじられていた。
結衣をいじる凛ちゃん、生き生きとしてるなあ……
ひょっとしてひょっとしなくても、S?
「お兄ちゃん」
「うん?」
「えっち、ってなに?」
「……キスよりもすごいことだよ」
「おぉー、なんかアダルトな感じ!」
今ので納得してくれたらしい。
助かった……
これ以上、ツッコミを入れられたら、どう答えていいものか。
真白ちゃんは、頼むからそのままピュアでいてほしい。
間違っても明日香みたいにならないでくれ。
これ、心からのお願いね。
「で、どうするの? キスする? それともエッチまでしちゃう?」
「し、ししし、しませんっ!!!」
結衣が真っ赤になって、深い関係を築くことを否定する。
「それは、まあ、いつかはとは思いますが……でもでも、今はやはり恥ずかしいというか、まだそこまでに至っていないというか……あうあう、に、兄さんはどう思いますか? やっぱり、無理ですよね?」
「そりゃな。さすがにそこまでするのはちょっと」
「むぅ……否定されるとされたらで、そこはかとなく複雑な気分になりますね……兄さんは、私なんて抱きたくないんですか? 妹はダメなんですか?」
結衣、落ち着け。
そういう意味じゃない。
そもそも、自分がどれだけすごいことを言ってるのか、自覚してるのか?
ともすれば、抱いてくれ、って聞こえるぞ。
「ま、エッチは冗談だけどね」
「本気だったろ……」
「そんなわけないでしょ。そこまでされちゃったら、さすがに差が広がりすぎちゃうし。言ったでしょ? あたし、宗一のこと諦めてないからね」
「お、おう」
笑顔で言われて、ついついドキっとしてしまう。
俺、簡単な男だなあ。
将来、女の子絡みでコロっと騙されてしまいそうだ。
自分で自分のことを心配してしまう。
「じゃあ、今度デートをして、そこでステップアップ……キスをする、っていうことで」
「ほ、本当にするんですか?」
「最終的な判断は任せるけどね。でも、あたしが思いつくのはこれくらい。他に案はないわ。というか、小鳥遊さんを諦めさせるだけじゃなくて、二人のためを思って言ってあげてるんだからね? 人には人のペースがあるだろうけど、いい加減、少しは進展しておかないと。宗一のこと、ホントに獲っちゃうわよ?」
「そ、それはダメです! 兄さんは私のものですからね!!!」
混乱の極みに達しているらしく、大声でとんでもないことを口にする結衣。
すぐに自分が口にしたセリフの意味を自覚して、再び赤くなる。
「そういうことで……決まりね。二人は今度のデートでキスをするように!」