145話 妹の姉貴分が考える作戦
「あのさ、ちょっといい?」
成り行きを見守っていた明日香が口を挟む。
「その作戦、根本的に無理がない?」
「どうしてですか?」
「宗一や結衣ちゃんの日頃の様子を誇張しても、すぐにバレちゃうでしょ」
「むっ、それは……」
「みんなで二人の仲睦まじい様子を教えてあげる、っていうのは悪くないと思うんだけどね。まっすぐな子には、意外と効くかもしれないし。でも……」
「でも?」
「話を盛ってバレたら、ますます疑いが強くなるし……かといって、普段の宗一と結衣ちゃんの様子を伝えても、あまり効果ないんじゃない? 二人共、ヘタレだし」
「へ、ヘタレ!?」
結衣が、なにやらガーンという様子でショックを受けていた。
小声で、『兄さんと同じに見られているなんて……』とつぶやいている。
おい、待て。
それはどういう意味だ?
結衣は、俺のことをヘタレと思っていたのか……?
お兄ちゃん、悲しいぞ。
「そう言われてみると、そうですね。先輩、ヘタレですもんね」
俺だけに矛先が集中した!?
「どうやら、私の案は使えないみたいですね」
「悪くないんだけどね。二人が日頃から、もっとイチャイチャしてればよかったんだけど」
「えっ、こ、これ以上、兄さんとイチャイチャするんですか? そ、それはうれし……ではなくて、た、大変ですよ。これ以上なんて……ドキドキしすぎて、おかしくなってしまいそうです!」
結衣が全力で拒否する。
そこまでイヤなんだろうか?
って、違うか。
嫌われてない、ってことは聞いたから……単に恥ずかしいだけなのかもな。
……いや、それも違うか?
好きな人がいる、って言ってたよな。
つまり、好きな人に勘違いされたくないから、必要以上に俺とイチャイチャしたくない……
うん。そう考えると辻褄が合うな。
そっか、なるほど。
結衣は好きな人のことを考えて……
むぅ……妹の幸せを願いたいところだが、どこぞの顔も知れないヤツに結衣を任せる気にはなれないな。
まずは、保護者である俺と面接。
二次、三次を通過したら、デートくらいは許可して……
「宗一? なにぼーっとしてんの?」
「やっぱり、俺もデートに同行すべきか?」
「は?」
「あ、いや。なんでもない。気にしないでくれ」
いかんいかん。思考が暴走してた。
最近、結衣のことになると、ちょっとトリップしてしまうな。気をつけないと。
「明日香お姉ちゃんは、何かあるの?」
もう仲良くなったらしく、真白ちゃんは明日香を名前で呼んでいた。
「ふっふっふ、よくぞ聞いてくれたわ」
「明日香が自信たっぷりだと、なんかイヤな予感がするな」
「失礼ね。それが助力を求める側の態度なの?」
「さーせん」
「あらー、宗一くん。最近、ちょっと生意気ねー。教育が必要かしら?」
「拳を握りしめながら笑顔で迫るな!」
こいつ、本当に俺のことが好きなのか?
あの時の告白は夢だったんじゃないかと、疑ってしまうぞ。
「あたしが提案するのは……デートとステップアップよ!」
「デートと……?」
「ステップアップ……?」
兄妹揃って首を傾げた。
「要は、二人が恋人らしくないから疑われているんでしょ? なら、デートをするところを小鳥遊さんに見せつけて、恋人らしいところをアピールするの。疑う余地がないくらいイチャイチャすれば、納得してくれるでしょ」
「なるほど、明日香にしてはまともな案だな」
「ケンカ売ってんの?」
ジト目で睨まれて、目を逸らす。
本気で睨むなよ。
あの時の告白は以下略。
「でもでも、それだけでいいのかなぁ? 普通にデートするだけじゃ、なんか足りなくない? お兄ちゃんと結衣お姉ちゃん、疑われてるわけだし」
真白ちゃんが当然の疑問を口にする。
そこは、俺も疑問に思っていた。
デートをして仲の良いところを見せつける、というのは悪くないと思う。
が……そもそも、小鳥遊さんは、普段の俺たちを見て、関係に疑問を抱いているんだ。
そんな俺たちがデートをしたところで、小鳥遊さんを納得させられるのだろうか?
「その辺は織り込み済みよ。この天才明日香ちゃんに失敗はないわ」
「それ、自分で言ってて恥ずかしくないか」
「実はちょっと」
頬を染める明日香。
恥ずかしいなら言うなよ……
と思わないでもないが、幼馴染のよしみでツッコミをいれないでおいてやる。
「結局、どうするんですか? 私と兄さんが、で……デートをすればいいんですか?」
「そそ。でも、ただデートをするだけじゃダメよ。それじゃあ、今までと変わらないわ。小鳥遊さんも納得してくれないだろうし」
「なら、どうすれば?」
「そこで、ステップアップ……っていうわけよ」
「はぁ、ステップアップですか」
いまいちピンとこないらしく、結衣は不思議そうにしてた。
俺も同じような反応だ。
ステップアップと言われても、どうしたものか。
というか、明日香が求めているものが読み取れない。
「こらこら、兄妹揃ってきょとんとしないの。あたしの言いたいことなんて、簡単でしょ」
「いえ」
「まったくわからん」
「この兄妹は……鈍いのに、こういう時だけは息が合うのね」
俺と結衣が疑問符を浮かべる中、凛ちゃんと真白ちゃんは明日香の言いたいことを理解したらしく、納得顔をしてた。
ニヤニヤと笑ってる凛ちゃんが気になるが……ホント、どういうことだ?
「つまり、あたしが言いたいことは、今までと同じようにのほほんとしたデートをするな、っていうこと。恋人なら恋人らしく、それっぽいことをしなさい。してないから、小鳥遊さんに疑われたりするのよ」
「それは……」
「次のデートで……あんたたち、キスしなさい!」
「「えええええぇっ!!!?」」
明日香の爆弾発言に、俺と結衣は同時に大きな声をあげた。