140話 妹は進展を願います
<結衣視点>
話がある程度まとまったところで、昼休み終了5分前を告げるチャイムが鳴りました。
「おっと、もうこんな時間か。今後のことについてだが……」
「とりあえず、それは後で話し合いましょう。授業をサボるのはよくないですからね」
「うむ、そうだな」
色々と規格外ではあるものの、基本的に先輩は真面目な人らしい。
自分にとって大事なことでも、それよりも、授業を優先することが当たり前らしい。
そういうところは、ちょっとだけ好感が持てた。
……ちょっとだけですからね?
私は、兄さん一筋ですからね?
こういう時だけ妙に鋭くなって、変な勘違いをしないでくださいよ?
心の中で妙な言い訳をします。
「結衣さん。今日は、突然のことにかかわらず、来てくれてありがとう。うれしかった」
「先輩が相手というのはびっくりしましたけど……告白を無視するわけにはいきませんからね。とても大事なことですし」
「うむ。それでこそ、私が惚れた女の子だ」
「ど、どうも」
同姓が相手とはいえ、真正面から惚れたと言われると、ちょっと照れてしまいます。
「今後のことは、兄さんと話し合ってから決めたいので、そうですね……明日、また同じ時間に同じ場所で話をする、ということでいいですか?」
「了承した。問題ないぞ」
「じゃあ、また明日、ここで」
「ああ。またな」
先輩が屋上を後にしました。
それを見て、兄さんがため息をこぼします。
「ふぅ……なんていうか、濃い子だったな」
「そうですね」
兄さんらしい言い方に、ついつい笑ってしまいます。
確かに、先輩は『濃い人』ですね。
今までに見たことのないタイプの人です。
「嵐の予感がするよ」
先輩のような人に告白されて、私と兄さんの関係を疑われて……
何も起きないという方がおかしいでしょう。
きっと、何かが起きる。
でもでも、怯んでなんていられませんし……
前向きにならないといけません。
これは、ある意味チャンスです。
ここしばらくは、色々とあって兄さんとの距離を縮めることができませんでしたが……
今回の一件で、兄さんが私を見てくれるようになるかもしれません。
そのための努力は、怠らないようにしないと。
ただ待つだけなんて、もうごめんです。
チャンスは最大限に活かさないと。
「よしっ、がんばります!」
「おぉ、気合が入っているな」
「それはもう」
先輩を利用するようで、心苦しくもありますが……
まあ、向こうも、私の都合を考えずに告白しているわけですからね。
ちょっとくらい、この状況を活用したとしても、許されるでしょう。
「兄さん。今日の放課後、対策について話し合いましょう」
「一応、みんなにも相談しておくか?」
みんなというのは、凛ちゃん、明日香さん、真白ちゃんのことでしょう。
うーん。
みんなに相談に乗ってもらうというのは、とても心強いです。
凛ちゃんや真白ちゃんは、恋の相談の方も力になってくれると思います。
でも、そこまで甘えてしまっていいんでしょうか?
迷惑にならないか……
って、そういう思考はいけませんね。
頼りにすることは、決して悪いことではありません。
それは、ある意味、信頼の証でもありますから。
気にしてしまうのなら、いつか、恩を返せばいいんです。
互いに支え合うような関係に……
それは、兄さんだけじゃなくて……他のみんなとも、そういう関係になりたいです。
「巻き込んでしまうみたいで申し訳ないですが、お願いすることにしましょう。私たちだけでは、見落としてしまうこともあるでしょうし」
「そうだな。じゃ、メッセージでも送っておくよ」
兄さんがスマホを操作しながら、『それにしても』とつぶやきます。
「結衣は、彼氏を作る気はないのか?」
「はい?」
突然、そんなことを言われました。
「いや。俺と『フリ』をしてるのは、告白を避けるためだろ?」
「そうですね」
本当は、それ以外の目的もありますけどね!
フリをすることで距離を縮めて、本当の意味で、兄さんと結ばれるためです。
「いつまで続けるのかな、って、ふと思ってさ」
「イヤなんですか……?」
「んなことないさ。大事な妹のためだ、これくらい、苦じゃない」
そこは、大事な女の子と言ってほしかったです。
それで、そのままぎゅうって抱きしめてもらったり……きゃあきゃあ!
って、いけません。
わりと大事な話の最中なのに、妄想に走ってしまいそうになりました。
「でも、フリをするよりは、本物を見つけた方がいいだろ?」
「それは、まあ……」
「俺がこうしてることで、結衣がちゃんとした彼氏を作る機会を失っているんじゃないか……って思ってな」
兄さん以外に興味はないので、今の状況は、むしろ望むところではありますが……
さすがに、そんなことを真正面から言うことはできません。
いえ、いつかは言いたいんですけどね?
さすがに唐突すぎるというか、心の準備が整っていないというか……
もっとちゃんとした状況で口にしたいです。
「結衣は、今の状況に問題はないか?」




