14話 妹とデートをします
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
電車に乗ること、約20分。
降りた先に、巨大なショッピングセンターが見えた。
『セントラルシティ』
日本で1位2位を争うほどの面積を誇る、大手SCだ。
店舗は数え切れないほどで、ここで買えないものはないと言われている。ついでに言うと、一日で全ての店舗を見て回ることは不可能と言われているほどに広い。
幸いというべきか、電車で数駅のところにあるため、ちょくちょく利用している。
もっとも、デートで利用するのは初めてなんだけど……
「さすがに、休日のシティはすごいな……人波って、こういうのを言うんだろうな」
右を見ても左を見ても人、人、人。
途切れることなく人が行き交い、まさに波のようだ。
通路は四車線道路と同じくらいの幅があるんだけど、それでも足りないくらい、人が溢れている。休日は、平日の三倍増しになる、って聞くからなあ。
「これ、下手したら迷子になるかもしれないな」
「そうですね……こんなに人がいるなんて、思ってもいませんでした」
「先輩。携帯の番号を教えてくれませんか?」
「えっ!?」
くいくいっと服の端を引っ張られて……そして、なぜか結衣が驚いていた。
「いきなり兄さんの番号を聞くなんて……もしかして、凛ちゃんは……」
「変な勘違いをしないでちょうだい。はぐれた時のために、連絡手段を確保しておきたいだけよ」
「あっ、そういうことですか」
「……という名目で、先輩と距離を縮めたいと思っているの」
「えっ!?」
「り、凛ちゃん!? ダメですよっ、それはダメです! いくら凛ちゃんでも、兄さんは渡しませんからね! 絶対にダメですからねっ」
「ふふっ、冗談よ。そんなつもりはないから、慌てないで」
「もう、凛ちゃんは……」
「というわけで、番号を教えてもらってもいいですか?」
「必要というだけなら……いえ、しかし、兄さんが他の女の子の番号を……むぅ」
「どうしたんだ、結衣?」
「いえ……なんでもありません。なんでもありませんとも……ふん」
なんでもないなら、なんで機嫌が悪そうなんだ?
思うが、藪蛇を突きかねないので、黙っておいた。
とりあえず、サクサクっと、凛ちゃんと番号を交換する。
「あっ、先輩。ついでに、LIMEも登録していいですか?」
「どうして、そこまでするんですか?」
「ついでよ、ついで。特に深い意味はないわ」
「本当に、意味はないんですね?」
「まったく……結衣はヤキモチ妬きね。先輩が苦労する姿が思い浮かぶわ」
「いえ……ヤキモチではありませんよ? ただ、凛ちゃんが心配なだけですから。兄さんの毒牙にかけられないかと、危惧しているだけですよ」
「結衣は俺の味方なのか、それとも敵なのか?」
「もちろん、私は兄さんの味方で……そして、彼女ですよ」
パチリ、と結衣はウインクをした。
いたずらっ子のようなところが、妙にかわいい。
とはいえ、そんなことを口にしたら、きっと引かれてしまうだろうから黙っておく。
とにかくも、凛ちゃんとLIME登録を済ませた。
試しに、おはようのスタンプを送る。
「はい、届きました。これで完了ですね」
「よろしくね」
「こちらこそ」
これで準備はバッチリだ。
改めて、デートをしよう。
「って、細かい予定は立ててないか。どうする? どこか見たい店はあるか?」
「そうですね。そろそろ夏物の服が出ていると思うので、いくつかチェックしたいところです」
「結衣に同じく」
「なら、服をメインに見て回ろうか。あとは、その時々で臨機応変に、っていうことで」
問題ないというように二人が頷いたので、歩き始める。
しかし、本当に人混みがすごいな……夏のお祭りみたいだ。
ちょっとしたことで、はぐれてしまいそうだな。携帯の番号などを交換しておいてよかった。
「あの……兄さん」
「うん?」
「その、えっと……手を繋いでもいいですか?」
「え?」
「ほら、人混みがすごいでしょう? ですから、手を繋いでおいた方がいいかと思いまして。はぐれたら、それはそれで面倒ですし……別に、兄さんと手を繋ぎたいわけじゃないですからね? あと」
「その方が恋人らしいでしょう?」と、結衣は小声で追加してきた。
確かに、結衣の言う通りだ。
凛ちゃんから向けられている疑惑を晴らすことが今回の目的なのだから、もっと恋人らしくした方がいいかもしれない。
だけど、手を繋ぐ……か。
正直なところ、恥ずかしい。
相手は妹なんだけど……でも、恥ずかしいものは恥ずかしいんだ。仕方ないだろう?
彼女なんて、生まれてこの方できたことないし、そういう経験は皆無。耐性がない。
って、迷っていても仕方ないか。
やるべきことはきっちりとやらないと!
「ほ、ほら、結衣」
「はい……んっ」
そっと、結衣が俺の手を握る。
もう何度か手を繋いだことはあるんだけど……それでも、緊張してしまう。
妹の手は、とても柔らかくて、温かくて……
ドキドキと、うるさいくらいに心臓が鳴った。
「結衣と先輩、仲が良いのね」
「それは……恋人、ですからね。とはいえ、色々と気遣いが足りないところがあるため、少々不満はありますが……今は我慢してあげます。感謝してくださいね、兄さん?」
「はいはい、感謝してるよー」
「むぅ……もっと迫るような感じで、私に応えてくれても……いっそのこと本気になってくれても……いえ、なんでもありませんよ?」
「仲が良いところすみませんが……先輩、私も手を繋いでいいですか?」
「えっ!? 凛ちゃんも?」
「連絡先を交換したとはいえ、はぐれてしまったら、結衣の言う通り面倒ですし……なので、私もいいですか? ふふっ」
「えっと……」
ちらりと結衣を見る。
「むうううぅっ……」
おもいきり頬を膨らませていた。お前はハムスターか。
ヤキモチを妬いている……という演技をしているみたいだ。たぶん。
結衣のヤツ、演技がうまいなあ。こんな時まで恋人らしくふるまうことができるなんて。演劇部に入部した方がいいんじゃないだろうか?
「えっと……結衣。凛ちゃんの言う通りだと思うし……今回だけだから」
「……そうですね、わかりました」
「わかってくれたか」
「ですが、基本的に、兄さんの手は私のものですからね? 握手できる権利も回数も、全て私が管理しています。そのことを忘れないでください」
俺、そんなところまで管理されているの……?
「ほら、凛ちゃん」
「では、失礼して」
空いているもう片方の手を差し出して、凛ちゃんと手を繋いだ。
結衣の手とは違う柔らかさがあって、ついついドキッとしてしまう。
「先輩の手、温かいですね。ドキッとしてしまいます」
「そ、そうかな?」
「むぅ……兄さんがデレデレしています」
「そ、そんなことないぞ?」
「本当ですか? 鼻の下が伸びているように見えますが……むぅ」
「こういうことに慣れてないから、そりゃ、ちょっとは動揺してるけど……それだけだよ。他意はないし、大事なのは結衣だけだ」
「はぅ……私が大事、私が大事……えへ」
「結衣?」
「いえ、なんでもありませんっ……では、行きましょうか」
「そうね」
それにしても……これは、ひょっとしてひょっとしなくても、両手に花というやつでは?
とびきりの美少女が二人、しかも、手を繋いでいる。
こんな時になんだけど、ついつい、浮かれそうになってしまう俺だった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
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