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139話 妹はキスを求められる

「一つ、提案があるのだが、いいだろうか?」


 小鳥遊さんが、解決策を提案してきた。


 ……それは、とんでもない提案だった。


「今ここで、キスをしてみてくれないか?」

「は?」

「え?」


 兄妹揃って、間の抜けた声をこぼして、きょとんとした。


 やがて、その意味を理解して……


「き、ききき、キスですか!?」


 ぼんっ、と結衣が真っ赤になる。


 わかりやすい妹だ……なんて、からかうことはできない。

 たぶん、俺の顔も赤くなってる。

 仕方ないだろう。

 まともな恋愛経験ゼロの童貞にとって、キスなんて言われたら、刺激が強すぎるんだ。


 ついつい、想像してしまうじゃないか。

 俺と結衣がキスを……


 って、何を考えてる!?

 ホントに想像するなんて、俺はとんでもないシスコンか!


「予想外の反応だな。二人がそこまで恥ずかしがるなんて、思ってもいなかったぞ」

「あ、あああ、当たり前です! いきなり、き、キスなんて言われたら……あうあう」

「もしかして、まだしてないのか?」

「してません!」

「付き合って数ヶ月も経つのに?」

「あ……」


 結衣は、しまった、というような顔をした。


 今のミスは痛い。

 中学生じゃあるまいし、付き合って数ヶ月も経つのにキスもしてないのは、おかしいと思われても仕方ない。

 普通なら、キスだけじゃなくて、さらにその先の関係に発展していてもおかしくないわけで……


 俺と結衣が、さらにその先に……?

 それは……


 って、またまた何を想像しているんだ、俺は!?

 アホか!


 なんか、最近、調子が狂うな……


「すまないが、疑惑が深まったと言っていいだろう。私は、恋愛に詳しいわけではないが……付き合って数ヶ月の恋人がキスもまだなんて、ありえないのではないか?」

「……人には人のペースってもんがあるだろ? 俺たちはゆっくりと関係を深めていくんだ」

「ゆっくりと……ということは、そろそろ兄さんが私に手を出して……えへへ♪」


 なぜか結衣の方がうれしそうにしてる。

 そこ、反応が間違っているぞ。

 今の状況を忘れないでくれ。


「はっ……へ、変なことは想像していませんからね!? 兄さん、こっちを見ないでください!」


 俺の視線に気づいて、結衣が我に返る。

 それはいいんだけど、睨みつけるのはやめてくれませんかね……?


 なぜか赤い顔をして唇を尖らせる結衣に、妙な脱力感を覚えてしまう。


「……兄さん、兄さん」


 結衣が小声で話しかけてきた。


「……あの、ですね。その、えっと……し、した方がいいんじゃないでしょうか?」

「……なにをだ?」

「……だから、その……き、ききき……キスっ、ですよ!」

「……頭でも打ったか?」

「……私は正気です! ほ、ほら。先輩は、私たちの関係に疑問を持っているわけですし……ここは、き、キスでもしないと収まりそうにないですし……す、するしかないんじゃないですか?」

「……いや、でもな」

「……し、仕方なくですよ? 私は、まあ、そこまでしちゃうのはまだ早いというか、ドキドキしすぎてしまうというか……色々と思うところはありますが、ま、まあ、この場合は仕方ないでしょう。と、特別に、き、キスしても……いい、ですよ?」


 甘い視線をこちらに送る結衣。

 まるで、演技ではなくて、本気で求めているかのような雰囲気だ。


 思わず流されそうになってしまうが、ぐっと自制する。

 落ち着け、俺。

 相手は結衣、妹だ。本気でキスするわけにはいかないだろ。


「……それはなしだ」

「……どうしてですか?」

「……手を繋ぐとかならともかく、キスはやりすぎだろ。そういうのは、本当に好きな相手ができた時のためにとっておけ」

「……だからこそ、なのに。もう……兄さんのばか」


 結衣が拗ねる。

 なぜ?


「ふむ。キスできないということは、付き合っていないと認めた、ということでいいのかな?」

「どうしてそうなる。俺と結衣は、ちゃんと付き合っているぞ」

「キスもできないのに?」

「さっきも言ったが、俺たちには俺たちのペースがあるんだ。それに、キスをしていたとしても、なんでわざわざ小鳥遊さんに見せなければならん? そういうのは見せつけるものじゃないだろ」

「むう、確かに」


 ここで、ぐいぐいと押してこないあたり、小鳥遊さんも悪い子ではないのだろう。

 とはいえ、恋心をコントロールできないらしく、葛藤の色が顔に現れている。


「だがしかし、このままでは私は引き下がれない……」

「……なら、キスはなしですが、他のことで確かめてみたらどうですか?」

「結衣?」


 迷う小鳥遊さんに、結衣が言う。


「先輩は、今まで、私と兄さんを遠くから見ていただけですよね? それじゃあ、わからないことも多いと思うんです。私と兄さんが本当の恋人であることを見逃してしまうように、見えなくなっていることがあるはずです」

「ふむ、一理あるな」

「だから、今度は先輩の目で、直接確認してください。遠くからじゃなくて、すぐ近くで構いません。私と兄さんが一緒にいるところ……登下校中や、ごはんの時間。デートの時など、一緒についてきてかまいませんから。それで、確かめてみてはどうですか?」

「……おい、そんなこと言っていいのか?」


 小声で問いかけると、結衣はやけに良い笑顔をして頷いた。


「……こうなったら、他に方法はないでしょう? 無理矢理退けたとしても、しこりが残るだけです。先輩自身に、ちゃんと納得してもらわないと。それには、この方法が一番です」

「……そう言われると、そうかもしれないな」


 俺たちが付き合ってると言っても、小鳥遊さんは心の底から信じることはできないだろう。

 彼女自身が、納得してもらうしかない。

 そのための材料を、こちらから提供するしかない……か。


「どうだ? 俺たちとしては、これが最大限の譲歩だが……小鳥遊さんは、賛成してくれるか?」

「……うむ」


 ややあって、小鳥遊さんはコクリと頷いた。


「二人が本当に付き合っているのか、そうでないのか……しっかりと見極めさせてもらう!」

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