134話 妹とみんなでごはん
昼休み。
いつものように、結衣と待ち合わせをしている中庭へ……
「宗一」
行こうとしたところで、明日香に声をかけられた。
ニコニコしていて、ご機嫌だ。
なんか、イヤな予感がするな……
聞こえなかったフリをして、そのまま足を進める。
怪しいものに触れることなかれ。
……なんて思っていたら、おもいきり襟首を掴まれた。
「ぐあっ!?」
「ちょっと待ちなさいコラ。なに、ナチュラルに無視してくれてんの」
「お、お前っ、掴む場所を考えろっ、呼吸が止まるだろうが!」
「宗一なら平気よ」
「よくわからん信頼を向けられても困る」
コイツ、本当に俺のことが好きなんだろうか?
あれか? 好きな子をいじめたくなる小学生男子の心理か?
ってことは、明日香の精神年齢は小学生と同等、っていうことになるな。
なるほど、それなら理解できる。
「あんた、今、失礼なこと考えてない?」
「考えてません」
「丁寧語なのが怪しいのよっ」
「なら、考えてる!」
「堂々と開き直るんじゃない!」
スパーンッ、と丸めたノートで頭をはたかれた。
いつの間にそんなものを準備したんだ、こいつは。
「これから、結衣ちゃんと一緒にお昼なんでしょ」
「そうだが?」
「今日はあたしも一緒するから」
「え、なんで?」
「宗一を結衣ちゃんと二人きりにしたくなくて……わかりなさいよ、この乙女心」
「明日香が乙女心とか、ぷっ」
「泣いても殴るのを止めないわよ?」
「謝るから、笑顔で拳を握るのやめてくれませんか」
本当に怖いから。
「たまにはいいじゃない」
「でもな……」
「結衣ちゃんと二人きりにしたくない、ってのは冗談だけど。でも、宗一と一緒にいたい、っていうのはホントなんだから」
頬を染めながら、笑顔で言う明日香。
卑怯だ。
そんな顔をされたら、断れないじゃないか。
「まあ、結衣なら別に平気か」
なんだかんだで、最近は明日香と仲が良いからな。
恋人のフリをするだけじゃなくて、女の子の友情を育んだ方がいいだろう。
「じゃ、いくか」
「さっすが、話がわかるわね」
「ところで、中庭で合流なんだが、明日香は弁当なのか?」
「ううん、購買のパンにしようかな、って。焼きそばパンとクリームパン、よろしくね」
「自分で買え」
――――――――――
明日香と一緒に……脅されたので、一緒に購買までついていった……中庭に移動する。
今日は快晴だ。
空は青く澄んでいて、太陽ががんばって活動してる。
じりじりとした日差しがさんさんと降り注いでいて、じわりと汗が滲む。
そろそろ、屋内にした方がいいかもな。
俺は暑いのくらいなんてことないが、女の子は、日焼けとか気にするだろうからな。
「兄さーん」
ちょっと離れたところのベンチで、結衣が手を振っていた。
凛ちゃんも一緒にいた。
「悪い、またせたか?」
「いえ、そんなことはありませんよ。私たちも、今来たところです」
「ただの昼食なのに、どうしてデートみたいなセリフを口にしているのやら」
隣の凛ちゃんが俺たちのやりとりを見て、お腹いっぱいです、というような顔をしてた。
そのうち、『このリア充が』とでも言いそうな気配だ。
でも、残念。
俺たちはリア充じゃなくて、ニセリア充なんだよな。
なにせ、ニセの恋人だからな!
……胸を張って言うことじゃない。虚しくなってきた。
「先輩、おじゃまします」
「邪魔なんてことないよ。凛ちゃんなら、いつでも歓迎だから」
「それは、誘っているんですか? 結衣の前なのに、大胆ですね」
「違うからな!?」
「ニイサン……」
「だから違うからな!?」
結衣も、簡単に騙されないでくれ!
「そっちは、明日香さんが一緒なんですね」
「そうなのよ。宗一が、どーしてもあたしと一緒にいたい、なんて言うもんだから。仕方ないから、ついてきてあげたの。あたし、愛されてるわね」
「ソウナンデスカ……」
「だから、光のない目を向けるのはやめてくれないか!?」
ホラー映画じゃないんだから。
普通に怖いぞ。
「じゃ、いただきます」
「「「いただきます」」」
横に長いベンチを四人で占領して、昼ごはんを食べる。
俺と結衣は弁当。明日香は購買のパン。凛ちゃんは、コンビニ弁当だ。
「兄さん、ちょっといいですか?」
「ん? 卵焼き、もっと甘い方がよかったか?」
「いえ、これくらいがちょうどいいですよ。兄さんの味、っていう感じがして……って、そんなことじゃありません! 私が食いしん坊みたいじゃないですか!」
「えっ」
「素で驚いた、みたいな反応はやめてください」
「悪い悪い。で、どうした?」
「ちょっと、相談したいことがあって……できれば、明日香さんも聞いてほしいんですが」
「ん? あたしでよければいいよ」
「ありがとうございます」
結衣は箸を置いて、代わりに手紙を取り出した。