133話 妹は同性に好かれます
<結衣視点>
手紙を手に、呆然と立ち尽くしてしまいます。
突然のことに、予想すらしなかった事態に、思考回路がマヒしてしまいます。
「えっと……あれ? これは……あれ?」
「結衣、大丈夫?」
「凛ちゃん……私、夢を見ているんでしょうか?」
「いいえ。残念ながら、これは現実よ」
「ですよね……」
わかっていましたが……それでも、夢であってほしかったです。
「なんで、私に……? 何かの間違いでしょうか?」
「それはないんじゃない? 相手は、結衣のことをしっかりと認識していたし」
「も、もしかして、私から兄さんに渡してほしいとか!?」
「それもないんじゃない? 結衣に対して、良い返事を期待してる、って言ってたもの」
「……じゃあ、ホントのホントに私に?」
「ホントのホントね」
「……意味がわかりません」
兄さんからのラブレターなら大歓迎なんですが、なんで、見知らぬ人から?
しかも、女の人。
この展開は予想外です。いえ、ホントに。
いったい、どうすれば……?
「結衣、大丈夫?」
「大丈夫……ではないかもしれません」
「落ち着いて。とりあえず、教室に行きましょう。そろそろ時間よ」
「そ、そうですね……」
「その後で、まずは手紙を読んでみたら? ひょっとしたら、思っていたことと全然違うことが書いてあるかもしれないわ」
「そ、そうですよね!」
「まあ、その可能性は限りなく低いと思うけどね。
「凛ちゃ~ん」
「ふふっ、ごめんなさい。慌てる結衣なんて珍しくて、つい」
「もうっ」
からかう凛ちゃんに抗議するように、私は頬を膨らませました。
とはいえ……
このやりとりで、多少、落ち着くことができました。
たぶん、凛ちゃんは狙ってやったんでしょうね。
持つべきものは親友です。
「行きましょうか」
「ええ」
凛ちゃんと一緒に、教室に移動しました。
ほどなくしてチャイムが鳴り、先生がやってきて、朝のショートホームルームが始まりました。
連絡事項などを話した後に、先生が教室を後にして、一限目が始まるまで、ちょっとした時間ができます。
その時間を利用して、私は手紙を読むことにしました。
本当なら、人気のないところで見るべきなのかもしれませんが……
気になって気になって気になりすぎて、一限目が終わるのを待っていられませんでした。
手紙を膝の上に置いて……
周囲から見えないように猫背になって、手紙を開きました。
『こんにちは。
突然の手紙、失礼する。
私は、二年の小鳥遊はやてという者だ。
いきなりのことで困惑するかもしれないが、七々原結衣さん、キミのことが好きだ。
私が女で、キミが女であることは承知してる。
それでも、この気持ちを抑えることはできなかった。
受け入れてほしい、などと急なことを言うつもりはない。
ただ、話をしてくれないだろうか?
まずは、私のことを知ってほしい。
その上で判断してくれれば、とても幸いだ。
放課後、中庭で待っている。
よろしくお願いする』
手紙を読み終えた私は、思わず机に突っ伏しました。
「結衣、大丈夫?」
凛ちゃんがやってきて、心配そうに声をかけてきました。
「手紙、読んだの? どうだった?」
「やっぱり、私でした……勘違いとか何かの間違いとか、そんなのではありませんでした……」
「でしょうね。そう思っていたわ」
「他人事みたいに言わないでくださいよ……」
「他人事だもの」
「うぐ」
凛ちゃん、冷たいです……
そんなにそっけなくされると、グレてしまいますよ?
いえ、兄さんを困らせてしまうので、そんなことはしませんけどね。
「結局、どういう内容だったの? まあ、大体は想像つくのだけど」
「えっと……私のことが好きで、話をしたいから、放課後に会ってくれませんか? という内容でした」
さすがに手紙を見せるわけにはいかないので、大体の内容を端折って伝えました。
「なるほどね。それで?」
「え?」
「結衣はどうするの? その人に会いに行くの?」
「無視するわけにはいきませんけど……」
どうしたらいいんでしょうか?
こんな事態は初めてなので、うまく頭が回りません。
「まず、先輩に相談すべきじゃないの?」
「兄さんに?」
「なんで、不思議そうな顔をしているわけ? 先輩は、結衣の彼氏なんでしょう? 恋人なら、こういうことを相談しても問題ないでしょう」
「あっ」
そうでした。私と兄さんは恋人、という設定でした。
あまりのことに混乱して、そのことをすっかり忘れていました。
「そ、そうですね。兄さんに相談してみることにします」
「ええ、そうした方がいいわ」
「ただ、その……知恵は多い方がいいので、凛ちゃんも一緒してくれたらうれしいんですけど……」
「……貸し一つよ?」
呆れた様子を見せながらも、凛ちゃんは、しっかりと私の期待に応えてくれるのでした。