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131話 妹と兄の新しい日常

 翌朝。


 キッチンに立ち、いつものように朝食を作る。

 今朝は和風。

 ごはん、焼き魚、卵焼き、味噌汁、納豆。

 自分でいうのもなんだが、会心の出来だ。

 これなら結衣も喜んでくれるだろう。


 その結衣なんだけど、まだ降りてこない。

 いつもなら、とっくに起きてるんだけど……

 寝てるんだろうか? 珍しい、結衣が寝坊なんて。


「起こした方がいいのか?」


 せっかくの朝食が冷めてしまう。それはもったいない。

 結衣には、一番おいしい状態の朝食を食べてほしいからな。


 昨日の手紙のおかげか、俺はやる気に満ちていた。

 これからは、今まで以上に結衣の兄らしく、頼りになるところを見せていこう。

 そうすれば、もっともっと仲良くなれるはずだ。


 そして……心の底から繋がった、本当の家族になれるはずだ。


「おはようございます……」

「おは……うおっ!?」


 ようやく結衣が降りてきた。

 振り返り、挨拶をしようとして、思わず驚いてしまう。


「結衣……なんか、すごい顔してるぞ」

「わかっています……うぅ、なかなか眠れなくて……ようやく眠れた頃は、外が明るくなっていて……」

「だ、大丈夫か?」

「大丈夫ですぅ……ふぁ」


 あくびをする結衣。

 あまり大丈夫そうに見えないんだが……


 まあ、すごく眠そうにしているものの、顔色が悪いってわけじゃない。

 熱っぽい様子もないから、体調は問題ないだろう。


「まだ少し時間あるし、家出るまで寝てたらどうだ?」

「いえ、平気です……それに、朝ごはんはしっかりと食べないといけません。せっかく……兄さんが作ってくれたのに」

「そうか? そう言ってくれるのはうれしいが……あまり無理するなよ」

「手伝いますよ、兄さん」


 結衣と一緒に、テーブルの上に朝食を並べた。

 席について、箸を持つ。


「「いただきます」」


 いつものように、兄妹二人の朝食の時間。

 ただ、この日はいつもと少し違っていた。


「どうだ、うまいか? 今日の卵焼きは、我ながら良い出来だと思うんだ」

「まあま……はい、そうですね。お、おいしいと思います」

「あれ?」

「なんですか、兄さん。その、あれ? はどういう意味なんですか」

「いや、まあ……いつもなら、『いつもと変わりません』とか『普通です』とか、そんな答えが返ってきてたからさ」

「そ、それはっ……そんなこと、口にしていましたっけ?」

「してたよ! 思い切りしてたからな!?」

「記憶にありません」


 政治家のようにすっとぼける結衣。

 どういうことだ?

 結衣が、普通においしいって言ってくれるなんて……

 それほどまでに、うまく卵焼きが作れたのか。

 あるいは……何かしら、結衣に心境の変化が?


「えっと……おかわり、いるか? たくさんあるから、たくさん食べていいぞ」


 って、しまった。

 以前も、こんなことを言って怒られた記憶があるぞ。

 女の子だからそんなに食べられない、配慮が足りないうんぬん……って。


「そうですね……じゃあ、一切れだけいただきます」

「あれ?」

「なんで驚いているんですか?」

「いや、なんていうか……えっと、一切れだな? じゃあ、俺のを……ほら」

「ありがとうございます」


 おかしい。

 俺の妹がこんなに素直なわけがない。


「結衣……なんか、悪いものでも食べたか……?」

「わけのわからないことを言わないでください。今、食べているのは兄さんのごはんですよ」

「お、おう。そういえばそうだったな……」

「どうしたんですか? さっきから様子がおかしいですよ」

「様子がおかしいのは結衣じゃ……?」

「え?」

「いや、ほら。こんな素直なこと、今までにないからさ」


 謎をぶつけてみると、結衣がふくれっ面になった。


 あれ?

 俺、選択をミスった?


「私の手紙を読んで、まだそんなことを口にするんですか」

「手紙、って……あっ」


 そういえば、あの手紙……

 いつもツンツンしているのは本意じゃなくて、素直になれないだけ、って書いてあったような?


 ってことは……

 別に結衣がおかしくなったわけじゃなくて、これが、本来の結衣の姿?


「な、なんですか、じーっと見つめて」

「……ちょっと感動してた」

「感動ですか?」

「結衣が素直になってくれて、俺はうれしいぞ」

「そ、そこまで大げさに反応しないでください! というか、素直になった、って……わ、私は、その……ちょっと兄さんに対する当たりがきつすぎるかな、と反省しただけで……兄さんがかわいそうだから、仕方なく、そう、仕方なく優しくしてあげてるだけなんですからね!」

「そ、そうなのか……そうだよな、勘違いだよな……」

「あ、いえ……全部が全部、兄さんを気遣った結果というわけではないのですが……多少は、私の本心も混ざって……」

「結局、どっちなんだ?」

「べ、別に兄さんのことなんて……」


 結衣が顔を赤くして、何かを言いかけて……

 しかし、口を閉じて、やり直す。


「……少しくらいは、兄さんのことを気にしていますよ」

「そっか……ありがとな、結衣」

「お礼を言うことじゃないですよ」

「それでも、なんかうれしくて」

「……うれしいんですか?」

「おう」

「なら……もうちょっと、優しくしてあげますね。兄さん」


 結衣が笑う。

 最近、見ることができなかった、晴れ晴れとした笑顔だ。


 結衣に笑顔が戻ってきた。

 そのことが、とてもうれしい。

 気持ちを、ある程度表に出すようになってくれたことも、すごくうれしい。


 この日から、俺と結衣は、いつもと同じようで少し違う、新しい日常を始めることになった。

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