130話 妹の手紙
結衣の部屋を後にして、自室に戻る。
ベッドに横に……ならず、適当なところに座る。
「もういいよな?」
取り出すのは、もちろん、結衣の手紙だ。
あの結衣が、手紙をくれるなんて……
いったい、どんなことが書かれているんだろう?
気になって仕方がない。
この手紙を読まない限り、眠ることはできないだろう。
なので、手紙を読むことは正しい行為と言える。
結衣としては、もっと後で読んでほしいのかもしれないが……
無理です。我慢できません。
「というわけで、開封」
ドキドキと、ちょっとばかりのびっくりと、複雑な感情を抱きながら、手紙を読む。
『兄さんへ。
感謝の気持ちを伝えたくて、手紙を書くことにしました。
日頃の私は、どうにもこうにも素直になれないので……こうして、手紙なら私のありのままの心を伝えられるような気がします。
先日のデート、とても楽しかったです。
まずは、そのお礼を言わせてください。
水族館に連れて行ってくれて、ありがとうございます。
私とデートしてくれて、ありがとうございます。
兄さんと一緒の時間を過ごすことができて、うれしいです。
日頃、ツンツンした態度をとってしまいますが、兄さんのことが嫌いというわけではありません。
そのことは、デートの時も話したと思います。
あの時は、好きでも嫌いでもないと言いましたが……
一つ、補足させてください。
私は、兄さんのことを大事に思っています。
もちろん、兄妹としてですよ?
変な勘違いをしないでくださいね?
私はひねくれているので、なかなか素直になれませんが……
ツンツンした日頃の態度は、あまり気にしないでもらえると助かります。
心の底では、兄さんのことを大事に思っていますから。
いつも優しくしてくれて、ありがとうございます。
いつも助けてくれて、ありがとうございます。
いつも笑いかけてくれて、ありがとうございます。
私の兄さんでいてくれて、ありがとうございます。
兄さんのおかげで、私はたくさんたくさん、助けられました。
言葉にできないくらい、感謝しています。
そして、大事に思っています。
ありがとう、兄さん。
これからもよろしくお願いします。
:追記
指輪、とてもとてもうれしいです。
私の宝物にしますね』
手紙を読み終えて、ぼーっと天井を見る。
結衣の想いがたくさん込められていて……
それが、とてもうれしくて……
ちょっとだけ、泣きそうになってしまった。
「こんな手紙、反則だろ」
結衣が、こんな風に思ってくれていたなんて……
驚きだ。
ついこの前まで、嫌われてると思ってたからな。
実のところ、そんなことはなくて……
それだけじゃなくて、大事に思われていたなんて……
「俺たち、ちゃんとした『家族』になれたのかな……?」
――――――――――
<結衣視点>
私はベッドに横になり、目を閉じて……
「あああ……うぅ……むぅーん……」
そうそう簡単に眠れるわけがなくて、ゴロゴロと転がります。
右へいったり左へいったり。
枕を抱えて、ゴロゴロ、ゴロゴロ。
兄さんのことだから、きっと、手紙を読んでいるでしょう。すぐに読んでいるでしょう。
手紙の内容を思い返して、顔が赤くなってしまいます。
私の素直な気持ちを書き連ねて……
しかも、兄さんのことが大事、とまで綴ってしまいました。
「い、いくらなんでも、赤裸々に書きすぎたでしょうか?」
あんなことを書いてしまうなんて、恥ずかしいです。
できれば、なかったことにして、今すぐに手紙を回収したいです。
でも、それじゃあ、今までの私と変わらないから……
「こ、ここは、ぐっと我慢しないといけませんよ、私!」
枕を抱きしめて、我慢します。
「……でもでも、もしかしたら、私の本当の気持ちにも気づかれたり?」
兄さんが好き。
そのことにまで気づかれていたら、私は……
「あああああっ、やっぱり回収に……いえ、でも……ううう、だけど!」
……悩ましい夜が過ぎていくのでした。