13話 妹と待ち合わせ
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
ウチの学校は公立なので、週休二日だ。
なので、土曜日にデートをすることになった。
家を出て、駅前の広場に向かう。
歩いて10分ほどで到着して、巨大な鐘のようなモニュメントの前に移動する。昔、とある人が偉業を達成して、このモニュメントが贈られたとかなんとか。
誰も由来を覚えていないようなモニュメントだけど、目立つので、待ち合わせによく使用されている。
俺も、モニュメントの前で妹と待ち合わせをしていた。
時刻は9時50分。
待ち合わせは10時だから、ちょうどいい時間だ。
「にしても……わざわざ、別々に家を出る必要なんてあったのか?」
デートは待ち合わせが基本! と力説されて、別々に家を出ることにしたんだけど……
一緒に家を出た方が待たなくて済むし、すぐに遊びに行けると思うんだけどなあ。
うーん、女の子の考えることはよくわからん。
「兄さん、お待たせしました」
5分前になったところで、結衣がやってきた。
ニットをゆるく着て、チュールスカートを合わせている。それに、スニーカー。春らしいファッションで、さわやかな印象がした。
身内の贔屓目を抜きにしてもかわいい。
「こんにちは」
結衣に続いて、相馬さんも姿を見せた。
ボーダーとマキシスカートの組み合わせで、カジュアル感が出ている。大人っぽい組み合わせで、相馬さんの雰囲気とよく合っていた。
「お久しぶりです、お兄さん」
相馬さんは、ぺこりと礼儀正しく頭を下げた。
「うん、久しぶり。っていうか、まともに挨拶をしてなかったね」
「そういえばそうですね」
「俺は、七々原宗一。結衣の兄だよ」
「ごほんっ、ごほんっ」
「……兄で、彼氏でもある」
「結衣の友だちの、相馬凛です。気軽に、凛と呼んでください」
「じゃあ、凛ちゃんで」
「はい。私は、お兄さんと呼びますね」
「ちょっと待ってください!」
何事か、結衣が間に割って入ってきた。
「凛ちゃんは、その……『お兄さん』はやめた方がいいんじゃないですか?」
「どうしてかしら?」
「いえ……紛らわしいというか、そう呼んでいいのは私だけといいますか……私だけの兄さんといいますか……」
「でも、七々原さんの方が紛らわしいでしょう? どっちも同じ七々原なのだから」
「それは……」
「……まあ、いいわ。結衣がダメというのなら、『先輩』にしておくわ。それでいいですか、先輩?」
「あ、うん。俺はどっちでもいいよ」
「どっちでもいいとはなんですか、兄さんっ!」
えっ? えっ?
俺、なんで怒られているの?
妹が怒るポイントがわからない……困惑するばかりだ。
「兄さんも兄さんなら、兄さんと呼んでいいのは私だけとハッキリ口にしてください! 兄さんがそういう態度だと、どんどん兄さんと呼ぶ人が増えてしまいますよっ、わかりましたか、兄さん!?」
「わ、わかったよ」
本当はさっぱりわかってないんだけど、とりあえず、妹の怒りを収めるためにコクコクと頷いておいた。
っていうか、兄さん兄さん言いすぎて、兄さんがゲシュタルト崩壊を起こしそうだぞ。
「まったくもう、兄さんは隙がありすぎです。もっとしっかりしてくれないと」
「す、すまん。これからは気をつけるよ」
「そうしてくださいね? それと、兄さんを独占したいとか、そういうことは思っていませんからね? 勘違いしないでくださいよ?」
怒ったり慌てたり、忙しいヤツだな? どうしたんだろう?
……これが思春期?
違うか。
「結衣は先輩と仲が良いのね」
「えっ、そう見えますか?」
「ええ。さすが恋人というか、一緒にいると胸焼けを起こしてしまいそうよ」
「そうですか。そう言われると、悪い気はしませんね。こんな兄さんでも、一応、彼氏なので。こんなでも、彼氏なので」
こんな言うな。あと、二回も言うな。
扱いが雑すぎて泣けてくる。
「今更だけど、私が一緒でいいの? 邪魔にならない?」
「大丈夫ですよ、気にしないでください。私から誘ったのだから、邪魔なんてことありませんよ」
「本当に?」
「はい。今日は、凛ちゃんと兄さんと、みんなで遊びたいと思い、こうして誘ったのですから。遠慮はなしですよ」
「邪魔でないというのならば、まあ、いいのだけど……」
凛ちゃんは、じっと結衣を見つめた。
その目にあるのは、疑い? それとも……
「どうしたんですか?」
「……いいえ、なんでもないわ」
続けて、こちらに視線が向く。
結衣の時と同じように、じーっと見つめられる。
それはもう、穴が開いてしまうんじゃないかって思うくらい、見つめられる。
「え、えっと……なにか?」
「先輩は、結衣と付き合っているんですよね?」
「うん。まあ、一応」
「兄さん? 一応ってなんですか、一応って。ハッキリしてください!」
「ちゃんと、しっかり、ばっちり付き合ってるよ!」
「それなのに、私がデートに一緒してもいいんですか?」
「かまわないよ。結衣と二人きりになりたい、っていう気持ちはあるけど、でも、友だちも大事にしてほしいから」
「兄さん……そんなに、私のことを考えてくれていたなんて」
結衣がうっとりした様子で、頬を染めている。
事前の打ち合わせ通りに、決められた台詞を口にしただけなんだけど……それでも、こんな演技ができるなんてすごいな。結衣は、将来役者になれるかもしれない。
「そうですか……そういうことなら、遠慮したり、余計なことは考えないようにします。そうしたら、逆に二人に気をつかわせてしまいそうなので」
「うん、そうしてもらえると助かるかな」
疑われていたわけじゃないのかな……?
まだ断定はできないけど、そんなにビクビクしなくても大丈夫そうだ。
「じゃあ……先輩。今日はよろしくお願いしますね」
「うん、こちらこそ」
「結衣もよろしくね」
「ええ。楽しい一日にしましょうね」
みんなで笑顔を交わして……そして、波乱のデートが幕を開けるのだった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
前の話で、ちょっと不穏な家庭環境が明らかになりました。
多少、シリアスな展開はありますが、基本は甘く甘く、を貫いていきます。
これからもよろしくお願いします。