129話 妹とプレゼント・4
<結衣視点>
こ、これは、もしかしてもしかしなくても、兄さんが指輪をつけてくれる……!?
「あうあう」
ど、どうしましょう?
もしも、薬指に指輪をハメられてしまったら……?
そ、その時は、兄さんも同じ気持ちと考えても……いいんですよね?
ずっと、兄さんと結ばれることを夢見てきましたが……
まさか、こんなに唐突にイベントが発生するなんて。
今日は、人生最良の日になりそうです。
「いいか?」
「は、はい……その……ど、どうぞ」
「緊張してるのか?」
「そ、そそそ、そんなことありませんにょ!?」
「噛んでるし」
「気のせいです!」
「ほら、じっとしてて」
「あ……う」
兄さんの優しい笑顔に、骨がとろけてしまいそうになります。
体が熱いです。
心がぽかぽかします。
兄さん、兄さん、兄さん♪
やっと、私たちは……
「……うん。これでよし」
兄さんは、人差し指に指輪をハメました。
「……はぁ」
ええ、わかってました。
わかってましたよ?
どうせ、こんな結末になるんだろうなあ、っていうことは。
それでも、多少は期待してしまうじゃないですか!
だって、千載一遇の好機なんですから!
期待しない方がどうかしてますよ!
それなのに、兄さんはこんな時でも平常運転で……もうっ!
「どうした? なんか、怖い顔してるが……サイズ、合わなかったか?」
「い、いえ。大丈夫です」
落ち着きましょう、私。
いつものことです。これはいつものこと。
だから、そこまで気にしても仕方ありません。
それよりも……
「……えへ」
兄さんがプレゼントしてくれた指輪。
薬指にハメることは叶いませんでしたが……
それでも、うれしいことに変わりありません。
何度も何度も、指輪を見てしまいます。
とても綺麗で……兄さんの想いが伝わってくるみたいで……
思わず、指輪がハメられた人差し指を、もう片方の手でそっと撫でてしまいます。
この指輪は、一生の宝物です。
「兄さん……どうですか? 似合いますか?」
「ああ、よく似合ってるよ。かわいい」
「かっ……」
ついつい反応して、顔が赤くなってしまいます。
かわいいなんて言わないでください。
心臓がドキドキして、倒れてしまいそうになるじゃないですか。
「に、兄さんは口だけは達者なんですから!」
「いや、ホントに良いと思って……」
「そ、それ以上は何も言わないでください! ダメです、口を閉じてください!」
「お、おう」
「息もしないでくださいね!」
「究極の理不尽!?」
「す、すいません。照れくさくて、つい……」
「喜んでくれたなら、何よりだ」
「はい……とてもうれしいです」
私は、とびっきりの笑顔を浮かべて、
「ありがとうございます、兄さん」
――――――――――
<宗一視点>
「ありがとうございます、兄さん」
「っ」
輝くような結衣の笑顔に、思わず、胸がドキッとした。
何を考えてるんだ、俺は。
妹を『かわいい』って思うなんて……
いや。結衣は、確かにかわいい。
身内びいきと言われるかもしれないが、かなりの美少女だ。
そんな結衣だから、かわいいのは当たり前なんだけど……
妹とか関係なしに、女の子としてかわいいと思った……なんておかしいよな。
「どうしたんですか、兄さん?」
結衣が不思議そうにこちらを見ていた。
いかん。
今の俺の思考を読まれたら、軽蔑されてしまう。
『兄さんは、妹に発情するケダモノなんですね。サイテーです』ってな感じで。
「な、なんでもない!」
「そうですか? その割に、顔が赤いような……?」
「ホント、なんでもないから」
このまま結衣と一緒にいたら、ますますおかしくなってしまいそうだ。
今日の俺、なんかおかしいな……いつもの調子が出ない。
「俺、そろそろ寝るよ」
「あ、はい。おやすみなさい、兄さん」
「ああ、おやすみ」
「兄さん」
部屋を後にしようとしたら、結衣に引き止められた。
振り返ると、指輪を見せながら、結衣が微笑む。
「何度も繰り返しになってしまいますが……指輪、ありがとうございます。とてもとてもうれしいです」
「……そう言ってもらえて、よかったよ」
結衣の笑顔に、またドキドキしてしまうのだった。
ホント、いかんな……今日の俺はダメダメだ。