128話 妹とプレゼント・3
<結衣視点>
「兄さん、ちょっと待っていてくださいね」
私は机に向かい、ペンを取ります。
そして、ペンを走らせて最後の言葉を記して……
これでよし、です。
あとは封筒に入れて、シールで留めて……
手紙の完成です。
「兄さん……あの、その……これをどうぞ」
「これは?」
「……手紙です」
「手紙に? 俺に?」
「はい。あの、ですね……日頃の感謝の気持ちといいますか、なかなか伝えられないことを文字にしたといいますか……とにかく、受け取ってください!」
やや強引に、手紙を兄さんに押し付けました。
兄さんは、ちょっと困惑していました。
まあ、兄さんのことですからね。
手紙なんて書かないで、直接口にすればいいじゃないか、とか思っているんでしょう。
直接口にするなんて恥ずかしいから、手紙を書いたんですよ。
それくらい察してください。
まったく、困った兄さんです。
「指輪のお礼というか……私も、兄さんに贈り物を……いつもありがとうございます、という気持ちを伝えたくて……だから、手紙を書いてみました」
「そっか……ありがとな、結衣」
「わっ、わわわっ。あ、頭を撫でないでください!」
急にされたら、うれし恥ずかしいじゃないですか!
顔がニヤニヤしてしまいそうです。
「じゃあ……」
「って……あ、開けないでください!」
「え? 読んだらいけないのか?」
「そうじゃなくて、私の目の前で読もうとしないでください! 兄さんのえっち!」
「理不尽な叱責!?」
「そういう手紙は、普通、本人の前で読んだりしないでしょう。一人でこっそりと読むものですよ」
「そ、そういうものなのか?」
「そういうものなんです!」
きっぱりと断言すると、兄さんは納得してくれたみたいでした。
ひとまずというように、手紙をポケットにしまいます。
「なら、手紙は後で読むことにするよ」
「よ、読まなくてもいいですよ?」
「なんでそうなるんだ?」
「いえ、その……やっぱり、は、恥ずかしくなってきたといいますか……色々と、大変なことを書いてしまったので……」
「なら、なおさら読まないといけないな」
兄さんがニヤニヤと笑う。
むぅ、兄さん意地悪です。
妹をいじめて楽しいんですか?
いじめっ子です。
「怒りますよ」
「結衣が怒るとどうなるんだ?」
「凛ちゃんや明日香さんに、涙目で兄さんにひどいことをされた、と言います」
「ごめんなさいすみません俺が悪かったです」
ふふふ、正義は勝つ、です。
「まあ、せっかくの結衣の手紙なんだ。ちゃんと読ませてくれよ」
「はい……その、感想とかはいらないですからね? 手紙のことについての話はしないでください」
「結衣がそういうのなら」
「手紙の話はこの辺にして……」
兄さんからもらった指指を、そっと両手で包みます。
大事な大事な宝物……
「指輪、本当にありがとうございます……とても、うれしいです」
「ならよかった。結衣が喜んでくれて、俺もうれしいよ」
「も、もう……兄さんは、恥ずかしがることもなく、そんなことを簡単に言って……また、惚れ直してしまうじゃないですか……」
最後の方は、蚊の鳴くような声で、私にだけ聞こえる声でつぶやきました。
「指輪、つけてみてもいいですか?」
「もちろん」
ケースから慎重に指輪を取り出して、手の平に乗せました。
とても綺麗です。
そっと、指先でつまみ、指に……あれ?
これは、どの指にハメればいいんでしょうか?
……薬指?
「ふぁ」
そ、そそそ、そんなことをしたら、さすがの兄さんも私の気持ちに気づいてしまうのでは!?
でもでも、指輪というと、やっぱり薬指が……!
兄さんからの贈り物なら、なおさらです!
だけど、そこまであからさまなことは……あうあう、私はどうすれば!?
「ん? どうしたんだ?」
「いえ、あの、その……」
「サイズなら問題ないと思うぞ。ちゃんと測ったわけじゃないが、一般的な女の子のサイズにしたからな。ズレたとしても、後々で調整してくれるらしいし」
「そ、そういうことを気にしてるわけではなくて……」
「……ああ、そういうことか」
「っ!?」
も、もしかしてバレた!?
指輪を薬指にハメるかどうするかで悩んでいることが、兄さんにバレた!?
「こういう時は、男の役目だもんな。ほら、貸してくれ」
「え? え?」
混乱している間に、兄さんは指輪を取りました。
そして、私の手を取り……