127話 妹とプレゼント・2
<結衣視点>
さらに数日が経った、ある日のこと……
「結衣、ちょっといいか?」
「はい、なんですか」
自室でとある作業をしていた私は、ノックの音に気がついて、部屋の扉を開けました。
扉の向こうには兄さんが。
何やら、そわそわしています。
「悪いな。勉強の途中だったか?」
「いえ、て……なんでもありません」
「うん?」
「ほぼほぼ終わったことなので、気にしないでください。で、どうしたんですか?」
「あー……いざってなると、照れるな。これ」
「はい?」
「こっちの話だ。つまり……大事な話があるんだ」
そう話す兄さんは、ちょっと赤くなっているみたいでした。
大事な話……照れる……赤くなる……
も、もしかして……告白!?
ついに、ついについについに、私の想いが兄さんに届いたんですか!?
フリではなくて、本物の恋人に……!
なんて、そんなわけありませんよね。
何度も夢で思い描いたことですが、それらしいフリはありませんし、イベントも起きていません。
自分に都合の良いことを考えるのはやめにしましょう。
現実に直面した時、ダメージが大きくなります。
兄さんのことだから、今日の夕飯の話とか、あるいは学校に関連することとか、そんなことでしょう。
「今更、って思われるかもしれないけど、俺としては、どうしても無視できなくてさ。自己満足かもしれないが、やっておきたかったんだ」
「えっと……話が見えないんですけど?」
「つまり……はい、これ」
兄さんは、とあるものを差し出してきました。
手のひらサイズのケース。
それは……指輪でした。
「え? ……え?」
「ずいぶん遅れたけど……誕生日、おめでとう」
「え? え? え? ……え?」
私は混乱の極みに達します。
これは夢? 夢ですよね? だって、こんなことありえません。
私、まだ何も言っていないのに……
あれ?
でも、夢にしてはやけに鮮明な……
あれ?
「結衣? どうした? やっぱ、今更って呆れてるか……?」
「い、いえ……呆れているというか、そんなことはなくて……え? 驚いているんですが……な、なんですか、これ?」
「昔のやり直しだよ。ほら、いつかの誕生日の時、結衣が指輪が欲しい、って言っただろ? でも、その時は買えなかったからさ……今更だけど、やり直しがしたくて」
一拍置いて。
「えええええぇっ!!!?」
ようやく目の前の現実を理解することができた私は、驚きの声をあげました。
どうして!? どうして!? どうして!?
なんで、兄さんが指輪のことを!?
「思い出したんですか……?」
「ああ……って、結衣は覚えてたのか?」
「そ、それはもう……大事なことですから」
「そっか、大事なことか……なら、やっぱり、思い出せてよかった」
「でも、どうやって? 兄さん、すっかり忘れていたじゃないですか」
「うっ、すまん」
「あ、責めるつもりはなくて……どうやって、思い出したんですか? ……もしかして、誰かから聞いたり?」
「いや、そんなことはないぞ?」
なら、どうして?
頭の上に疑問符を浮かべていると、兄さんは、サラリととんでもないことを口にします。
「思い出せたのは、結衣のことをずっと考えてたからかな」
「ふぇっ!!!?」
「この前、水族館で昔のことを話しただろ? あの時、思ったんだ。昔の失敗をそのままにしたくない、ちゃんと結衣を笑顔にしたい……ってな。それで、ここ最近、ずっと結衣のことについて考えてたんだ。朝も昼も夜も結衣のことばかり考えて……で、ようやく思い出すことができた」
「ひゃあああ……」
そ、そそそ、そんな告白みたいなことを言わないでください!!!
兄さんは、妹を萌え殺すつもりですか!?
私の心臓はドキドキばくばくしていて、今にもどうにかなってしまいそうですよ!
兄さんの妹たらし!!!
あううう……でもでも、思い出してくれたことは本当にうれしいです。
しかも、思い出しただけじゃなくて、指輪を買ってきてくれるなんて……
「って……ほ、本当に指輪を買ってしまうなんて……これ、高かったんじゃあ……?」
宝石などはついていない、シンプルなタイプの指輪ですが……
でも、とても洗練されたデザインで、簡単に手が出せるようなものではないと、素人目でも一目でわかります。
こんなものを買ってしまうなんて……これ、いくらしたんでしょうか?
思わず心配する私に、兄さんは笑ってみせます。
「まあ、多少はしたけどな」
「やっぱり……そんな無理をしなくても……」
「無理なんかじゃないさ」
「え?」
「大事な妹のためなんだ。無理に思うことじゃない」
「……兄さん……」
兄さんに抱きつきたい衝動に駆られました。
抱きついて、おもいきり甘えて、告白して……
そんなことをしたくてしたくて、もうたまりませんでした。
でも、今、そんなことをしてしまうのは、なんだかずるいことのような気がしたから……
他のことで、兄さんへの感謝の想いを伝えることにしました。