126話 妹とプレゼント・1
<結衣視点>
明日香さんに相談を持ちかけて、数日後……
「あの、兄さん」
「うん?」
夕飯を終えて、リビングでのんびりとテレビを見ている最中……
CMが流れている間に、兄さんに声をかけました。
「あの、ですね。ちょっとお願いしたいことがあるといいますか、ほ、欲しいものがあるといいますか……」
「欲しいもの? 珍しいな、結衣がそんなことを言うなんて」
「まあ、色々とありまして」
「なんなんだ、欲しいものって」
「えっと……」
指輪です。
昔、誕生日にプレゼントしてほしかった指輪を、今、買ってくれませんか?
大丈夫です。高いものは選びませんから。
兄さんのお小遣いでも買えるくらいのものにしますから。
「言えるわけないじゃないですか、そんなこと!」
「おぉ!?」
「あっ、いえ。なんでもありません……独り言です」
セリフツッコミをしてしまい、兄さんを驚かせてしまいました。
変な妹と思われていなければいいんですが……
やはり、自分からおねだりをするなんて、難易度が高いです。
しかも、指輪のような高価なものになると、ますます難しくなります。
過去の問題を解決するためとはいえ、なかなかどうして、踏み込むことができません。
うぅ……過去の私、どうして指輪なんておねだりしたんですか!
お菓子とか文房具とか、それくらいの物なら簡単にお願いすることができたのに。
「それで、結局なんなんだ?」
「いえ……なんでもありません」
この日も本題を切り出すことができず、私は撤退するのでした……
「はぁあああああ」
自室に戻り、盛大にため息をこぼしました。
どうして、私は、肝心なところで一歩退いてしまうんでしょうか。
……まあ、理由はわかっているんですけどね。
指輪が欲しい、なんてわがままを言って、兄さんを困らせたくありません。
兄さんなら優しいですし、きっと、私の願いを叶えてくれると思います。
お小遣いをなんとかやりくりして、買ってくれると思います。
そんな人ですから♪
でも、やっぱり、負担をかけることは望むところではなくて……
「……諦めた方がいいかもしれませんね」
ちょっとした、しこりを残してしまいそうですが……
無理に実行して、兄さんにいらぬ負担をかけるよりはマシです。
「とりあえず……今は、もう一つの作業にとりかかりましょう」
私は机に向かい、ペンを取り出しました。
――――――――――
<宗一視点>
部屋に戻った結衣のことが気になる。
「何がしたかったんだろうな?」
わからない……が、気になる。
最近の結衣は、ちょっと様子がおかしい。
何かを隠しているというか、言いたいことを言い出せないというか……
「なんか、前にもこんなことがあったような気がするな。あれは……そう、ずっと前のことだ。結衣の誕生日の……」
結衣の期待を裏切ってしまった日のこと。
結衣は、気にしていないと言ってくれたものの……
わかったありがとう、と開き直ることはできない。
結衣の期待に応えられなかったことは確かで……
できることならば、やり直したい。
今度こそ、結衣のお願いを叶えてやりたい。
なぜ、そこまでするのか?
答えは簡単だ。
妹のわがままを聞くのが、『兄』ってもんだからな。
「とはいえ、お願いの内容を覚えてないんだよな……」
あの時、結衣は何を望んだ?
何を欲した?
必死になって思い出そうとするものの、頭に霧がかかったみたいに、詳細が浮かんでこない。
ずいぶん前のことだ。思い出せないことは仕方ない。
仕方ないが……そこで諦めたくない。
「せめて、何かヒントがあれば……」
物語だと、夢で思い出す、なんてことがあるんだけど……
あいにく、現実はそうはいかない。
自力でなんとかしないと。
「誕生日だから……ケーキや料理があるから、食べ物じゃないよな? 何か、形に残りものが欲しい、って言ったはずだ。で……結衣は女の子。女の子らしいもの、と仮定しておこう。子供だから、大人に憧れるようなものかもしれない。以上のことから考えて、候補は……って、違うか」
突き詰めて考えれば、答えは見つかるかもしれない。
でも、それじゃダメだ。
結衣との約束を果たしたことにならない。
きちんと思い出して、その上で、応えてやらないと。
「……」
そっと目を閉じる。
そして、考える。
思い出せ。
思い出すんだ、俺。
大事な結衣のことなんだ。妙なしこりを残したくない。
何より、このままなんて、俺自身が納得できない。
だから、思い出すんだ。
結衣は、何を望んだ?
それは……