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125話 妹は姉貴分を頼りにします

<結衣視点>



「で、あたしを頼りに?」

「はい……なんていうか、いつも迷惑かけてすみません……」


 翌日の放課後。

 今日は用事があるからと、一人で帰る……フリをして、明日香さんと合流しました。

 そのまま、普段はウチの学生が利用しないカフェに移動して、相談を持ちかけました。

 最近あったことを話して……

 それから、どうやって兄さんの心の負担を取り除けばいいか? と尋ねました。


「うーん、しかし、そんなことになってたなんてねえ。結衣ちゃんも、水臭いわね。あたしに言ってくれれば、いくらでも力を貸したのに」

「すいません……明日香さんを巻き込むのは、申し訳ないと思って……」

「そういうところで遠慮しなくていいのに」


 困ったようにしつつも、明日香さんは優しい笑顔を浮かべる。


「そりゃ、あたしたちはライバルだけどさ。隙あれば結衣ちゃんを出し抜こうとは思ってるわよ? でも、結衣ちゃんを蹴落としてまで宗一を手に入れたいわけじゃない。結衣ちゃんが困ってるなら、力になりたいわ」

「明日香さん……」

「ま、今度はちゃんと相談してくれたから、よしとしますか」


 ニッコリと笑う明日香さん。

 とても頼りになるというか……

 ホントのお姉ちゃんみたいな安心感があります。


「……はぁ」

「どうしたの、ため息なんてこぼして」

「いえ……つくづく、私はダメな女の子だなあ、と思いまして。頼ってばかりで、助けてもらってばかりで……いつもそれで、イヤになります。自分でなんとかしたいのに……」


 こういうことは自力でなんとかしないといけないのに……

 そうすることができなくて、他人の力をアテにしてしまいます。

 そんなことばかり。

 私は、誰かに依存しないと生きていけないのでしょうか?


 そんなことを口にすると、明日香さんは笑い飛ばします。


「深く考えすぎよ。っていうか、大なり小なり、人は誰かの力を借りてるものでしょ? 完全に自力で……一人だけで物事を解決するなんて不可能よ」

「そう……でしょうか?」

「それに、一人でなんとかしようとして、なんとかできずに潰れちゃう方がダメダメじゃない。無理してもいいことはないわ」

「それは……」

「結衣ちゃんは、自分にできることとできないことを、きっちりと理解してる。その上で、助けを求めている。そんな風に、きっちりと自分のことを見定められる人は、そうそういないわよ? 大抵は、プライドなんてつまらないものが邪魔しちゃうし……どうしても気になるようなら、あたしが困った時に助けてくれる? それくらいのことでいいの」

「……ありがとうございます」


 明日香さんの優しさが、本当にうれしくて……

 ちょっと、泣いてしまいそうになりました。


「それにしても、指輪かあ」


 私の話を反芻する明日香さん。

 なかなか難しい顔をしています。


 ですよね、普通そうなりますよね。

 話を持ちかけた私が言うのもなんですが、難しい話だと思います。


 昔の私の無茶振りに、応えることができず、兄さんはそのことを気にするようになってしまいました。

 指輪が欲しいという私のおねだり……

 果たせなかったその約束を、どう解決すればいいのか?


「無茶な話ですよね」

「無茶といえば無茶かもね。小さい頃に指輪なんてねだられても、なかなか用意できるもんじゃないし」

「あう……ですよね」

「指輪をねだるなんて、ひょっとして結衣ちゃん、その頃から宗一のことが好きだったの?」

「え、えっと……ど、どうなんでしょう? ハッキリと自覚はしてませんでしたが……ひょっとしたら、惹かれていたのかもしれません。それで、無意識に指輪をおねだりしたのかも……」

「そこで指輪が出て来る、っていう発想がすごいわよね。おませさん?」

「も、もうっ、そんなこと言わないでください」


 恥ずかしくなってきました。

 すごく恥ずかしくなってきました。

 あうあう。

 きっと、今の私は顔がりんごのようになっているでしょうね……


「こうなったら、あたしも指輪をねだろうかしら? それで、そのまま宗一をおいしくいただいて……」

「だ、ダメです! 兄さんは私のものですよ!」

「ふふーん、そこは譲らないわよ?」

「むううう」

「結衣ちゃん、フグみたい」

「もうっ、からかわないでください!」


 兄さんのことを相談に来たはずなのに、どうしてこんなことに。

 明日香さん、たまにいじわるですよね。


「相談する相手、間違えたでしょうか……」

「あ、ごめんごめん。拗ねないで」

「むう」

「まあ、結衣ちゃんが困ってるみたいだから話を戻すけどさ……ぶっちゃけ、そんなに難しい話じゃないでしょ、これ」

「え?」

「結衣ちゃん、頭いいのに、自分や宗一のことになると、けっこうポンコツになるわよね」

「ぽっ!?」


 なんか、ひどいこと言われました!?


「いい? よーく考えて」

「考えてますが……」

「ほらほら、拗ねないの。答えは、わりと簡単なんだから」

「簡単……ですか?」

「要するに、宗一は結衣ちゃんのおねだりに応えられなかったことを気にしてるんでしょ? なら、今になってからでもいいから、応えてあげればいいんじゃない」

「……また、おねだりをする、っていうことですか?」

「惜しい」

「えっと……?」

「昔のやり直し、をすればいいのよ。今度こそ、指輪を贈ってもらうの」


 目から鱗が落ちたような気分でした。

 まさか、そんな手があるなんて。


 確かに、それなら兄さんの心に刺さった棘を抜くことができるかもしれません。

 時間はかかったけど……

 約束を果たすことができた、と納得させられるかもしれません。


「でも……そんなことをしていいんでしょうか? 今になって、また、兄さんにおねだりするなんて……私、わがまますぎません?」

「宗一のためじゃない」

「そうですが……」

「それに、女の子はわがままなくらいでちょうどいいのよ」

「うーん……」


 ホントにいいんでしょうか?

 でも、他に思いつくことはありませんし……


 ……なら、せめて、今の案にもう一つ、つけくわえることにしましょう。

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