124話 妹が望んだものは
<結衣視点>
「それじゃあ、おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
家に帰り、お風呂に入り……
リビングでテレビを見ている兄さんに挨拶をして、私は一足先に自室に戻りました。
パタン、と自室の扉を閉めて……
「っーーーーー!!!」
そのままベッドにダイブ!
枕に顔を埋めて、言葉にならない声を漏らして、ジタバタと悶ます。
「つ、ついに言ってしまいました……兄さんのこと嫌いじゃない、って……!」
今までの私からしたら、大進歩じゃないでしょうか!?
これで、兄さんの勘違いを取り除くことができました!
一歩……いや、三歩くらい、私たちの関係は進んだんじゃないでしょうか?
大勝利です♪
「でもでも……そうなると、今度は、兄さんが私の気持ちを察しやすくなるのでは……?」
今までは、兄さんが『嫌われている』という勘違いがあったから、私の気持ちに気づくことはありませんでした。
でも、これからは違います。
嫌いじゃない、と言ってしまいましたからね。
そのことを自覚した兄さんは、今まで以上に、私の心を読むことができるはずです。
ひょっとしたら、私の恋心も察したりして……
「ひゃあああああ……」
その時を想像して、顔がぼんっと赤くなってしまいました。
まずいです。
やばいです。
ぱないです。
もしも、兄さんに私の恋心がバレたら? 見抜かれたら?
どんな顔をしていいか、わかりません。
でもでも、受け入れてくれる可能性も……
そうしたら、兄さんと真の恋人に……えへ、えへへへ♪
「って、いけませんいけません。浮かれてばかりではいられませんからね」
真白ちゃんの援護と兄さんのおかげで、なんとか、私は『弱い自分』を乗り越えることができました。
今なら、胸を張って言えます。
世界で一番兄さんのことを信頼しています……と。
それは、とてもうれしいことなんですが……
「兄さん……あの時のこと、気にしているんでしょうか?」
昔の誕生日のことを思い出しました。
私がわがままを口にして、兄さんにいらぬ勘違いをさせてしまった日。
ある意味、私たちの今の関係が始まった地点です。
「……そんなに気にしていたなんて……私のばか」
あの時のことは、兄さんに言われて思い出しました。
私の誕生日……
兄さんが、なんでも好きなものをプレゼントしてくれる、と言いました。
うれしくなった私は、
「……兄さんとの結婚指輪が欲しいです」
って、言ったんですよね。
あの頃の私は、まだ兄さんのことを好きではありませんでしたが……
新しくできた『兄』ともっともっと仲良くなりたくて、あれこれ考えた結果、結婚すればいいんだ、なんて、よくわからない答えを導き出しました。
子供の考えなんて、そんなものですよね。
そんな私の無茶振りに、兄さんは必死で応えようとしてくれましたが……
子供に指輪が用意できるはずもなく、プレゼントはなしになりました。
幼い私は、約束を守ってくれなかった=兄さんは私のことなんてどうでもいいと思ってる、と思いこんでしまい……
ついつい、嫌い、なんていうことを言ってしまいました。
「はあ……当時の私、頭が悪いですよ。ホント、何を言っているんですか……」
子供に指輪が用意できるはずないし、無茶ぶりもいいところです。
それに、結婚指輪って、色々とステップを飛ばしすぎです。まずは、婚約指輪でしょう。
って、そこはどうでもいいところでした。
「あの時のこと……気にしていたんですね……」
すごく申し訳ない気分になります。
私は、今さっきまで忘れていたというのに……
「このままでいいわけありませんよね」
兄さんが気にしているのなら、なんとかしてあげたいです。
私が原因なら、なおさらです。
兄さんが、私を助けてくれました。
私の成長を手助けしてくれました。
そのおかげで、強くなることができました。
その恩返しと……
何よりも、『兄さんのことが好き』だから。
兄さんの力になりたいです。
「どうしましょうか?」
今後のことについて、私は考え始めました。