12話 妹はデートを希望します
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
※いつの間にか、週間1位になりました! たくさんの応援をいただき、本当にありがとうございます。ただただ感謝です。楽しんでもらえるように、これからもがんばります!
夜……夕食を終えて、食器を洗う。
油のついていないものは、水洗いで十分。油がついているものも、少量の食器用洗剤で、必要以上に使わない。こういうところは大事だ。
「えっと……あれ、どこでしたっけ……情報を……」
リビングの方を見ると、結衣がスマホをいじっていた。
他に誰もいない。今、この家にいるのは、俺と結衣だけだ。
父さんは仕事で、いつも帰りが遅い。会社に泊まることも珍しくない。
母さんは……3年前、俺が中学三年、結衣が中学一年の時に、家を出て行った。詳細は知らないが、男を作って蒸発したらしい。
二度目の結婚も失敗して、ショックを受けた父さんは、今まで以上に仕事に打ち込むようになった。
結衣という家族が増えて、今まで以上に稼がないといけないのだろうが……
それだけじゃなくて、仕事に没頭することで、母さんのことを忘れようとしているようにも見えた。母さんとの思い出がある家を避けているように見えた。
だから、父さんが家に帰ってくることはほとんどない。帰ってくるとしても、俺や結衣が寝た後で、そして、起きる前に再び家を出て行く。
実質、俺と結衣は二人だけで暮らしているようなものだ。
だから……俺が結衣を守らないと。
「兄さん」
ぼーっと考えごとをしていたら、いつの間にか、結衣が近くにいた。
「ん? どうしたんだ」
「ちょっと相談があるんですが、今、いいですか?」
「ああ、大丈夫だ」
洗い物はちょうど終わった。手を洗い、結衣の話に耳を傾ける。
「実は、今日のお昼に凛ちゃんが……」
俺たちの関係が疑われているかもしれない、という話を聞いた。
「なるほど……凛ちゃん、って言ったっけ? ちょっと見ただけだけど、勘が鋭そうな子だよな」
「ええ、そうなんです。昔から、凛ちゃんは色々と鋭い子で、隠し事をしても簡単にバレてしまうことが何度もありました」
「……俺たちの『恋人のフリ』も、バレてる?」
「まだ、そこまでの確証はないと思います。凛ちゃんは、兄さんとまともに話をしていませんし……ただ、私の言動から、なにかしらの違和感を感じ取っているとは思います」
「なるほど……それは厄介だな」
一度、疑惑を持たれてしまうと、それを晴らすことはなかなかに難しい。
結衣のために、『恋人のフリ』は止めるわけにはいかないし……
凛ちゃんの疑惑を払拭する手はないだろうか?
「一つ、私に案があります」
結衣はすでに思いついていたらしく、そう言った。
「今の私たちは、恋人らしい演技……とでも言うのでしょうか? うまく演技ができていないために、凛ちゃんに疑惑を持たれているのかもしれません」
「一理あるな」
いきなり、妹の恋人のフリをするなんて、無茶にもほどがあるからな。
それに、恋人がいた経験もないから、うまく接することができていないのかもしれない。
でも、こればかりはどうしようもない。
昔も今も、俺にとって、結衣は『妹』なんだ。
いきなり恋人として扱うなんて、土台無理がある。
そう告げると、結衣は不満そうに頬を膨らませた。
「むぅ……兄さんのばか」
「すまん。俺なりにがんばっているんだけど、なかなかうまくいかなくて」
「そうじゃなくて、私が言いたいのは、兄さんの心構えというか私に対する態度というか……いえ、今は、そのことについて触れるべきではありませんね。下手に触れて、やっぱりやめよう、なんてことになったら大損害ですし……もっと、イチャイチャしたいですし……」
「どうした、ぼそぼそと?」
「いえ、なんでもありません」
仕切り直すように、結衣はこほんと咳払いをした。
「兄さんの演技力には期待していません」
「うっ……すまん」
「演技力については、今後に期待するとして……今は、この状況を切り抜けないといけません」
「そうだな。でも、どうしたものか……」
「そこで、さきほどの話に戻ります」
「そういえば、案があるとかなんとか?」
「はい。それで、あの……デートをしませんか?」
なるほど、デートか……うん?
「デートぉっ!?」
「はい。デート……です!」
「ど、どうしてまた?」
「凛ちゃんを誘い、私たち三人でデートをするんです。そこで、私たちがイチャイチャして、恋人らしいところを見せつけるんです。そうすることで、私たちが恋人だということを証明するんです」
「なるほど、そういうことか」
確かに、結衣の言う方法なら、うまくいくかもしれない。疑惑を払拭するには、恋人らしいところを見せつけるのが一番だ。
しかし……そこまでしないとダメなのか?
というか、結衣は俺とデートなんてして、耐えられるのか? 俺とデートなんて、例えフリとはいえ、嫌がると思うんだけど……我慢してるのか? それとも、とことんやらないと気がすまない質なのか?
これは、気軽に引き受けていいものか……
「えっと……結衣はいいのか? 俺なんかとデートするなんて……」
「もちろん望むところ……ではなくて、仕方ないですからね。非常に不本意ではありますが、疑惑を払拭しておかないといけませんし……不本意ながら、デートをするしかないかと。本当に不本意なんですよ?」
不本意って、三回も言わなくてもいいんじゃないかな? 泣くぞ。
「まあ、そういうことなら……デート、するか」
「はい♪」
なぜかうれしそうに、結衣はにっこりと笑った。
――――――――――
<結衣視点>
いつかの再現のように、部屋に戻った私は枕を抱きしめて、ベッドの上でゴロゴロと転がりました。
「兄さんとデート、兄さんとデート♪ やりました、私、ついにやってしまいました! こんなに大胆な行動に出ることができるなんて……ある意味で、凛ちゃんに感謝ですね」
凛ちゃんが疑惑を持ってくれたおかげで……私の勘で、実際は、本当に疑惑を抱いているのかわかりませんが……それを口実に、兄さんをデートに誘うことができました。
棚からぼたもちとは、まさにこのこと!
凛ちゃんに、感謝です。大感謝です♪
「さっそく、デートプランを練らないといけませんね!」
とっておきのデートプランを練り上げて、兄さんの想いを、たくさんいただいてしまいましょう。このチャンス、逃すわけにはいきません!
「兄さん♪ 兄さん♪」
いつしか、本来の目的を忘れて、私は夢中になってスマホでデートスポットを調べるのでした。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
たくさんの応援や感想、指摘、ありがとうございます。
まだまだ拙いですが、がんばりたいと思います。
これからもよろしくお願いします。