119話 妹とある意味初デート・5
「サメはもういいです。もっとかわいいものを見たいです」
「賛成だ」
サメエリアを離れて、案内図を見る。
「んー、次はどうしたもんか?」
「兄さん、兄さん。お昼、食べませんか?」
そういえば、そんな時間か。
そろそろ腹が減ってきた。
結衣も……って、そんなことを聞いたら、デリカシーがないと怒られてしまう。
「一階に、アクアリウムレストランがあるらしいですよ。よくわかりませんが、素敵な場所だと思いません?」
「なんだろうな? レストランの中に水槽があって、魚見れるんだろうか?」
「かもしれませんね。とりあえず、行ってみましょう」
来た道を引き返して、一階へ。
案内図に従い、レストランに移動した。
「おぉ……」
「うわぁ……」
中に入り、二人して言葉を失う。
レストランの壁が、一面、水槽になっていた。
大小さまざまな魚がゆったりと泳いでいる。
店内の明かりは暗くされていて、水槽がライトアップされていて……
雰囲気もあり、とても洒落ていた。
「すごいですね。まさか、壁が丸ごと水槽になっているなんて」
「ここまでとは思ってなかったなあ……さすがに、天井と床は普通か」
「そこまでは無理じゃないですか」
「いや、わからんぞ。そのうち、360度全部水槽、っていうのが出てくるかもしれない」
「楽しそうですけど、ちょっと怖いかもしれませんね。ほら、足元がガラスの展望台みたいな感じがしそうです」
そんな他愛のないことを話しながら席についた。
メニューを開くと、パスタ、ピザ、コーヒー……などなど、そこらのカフェとあまり大差ない。
まあ、水族館で魚介料理とか出されても微妙だから、悪いわけじゃないが。
値段は……まあ、それ相応の価格だ。
水族館とかなら、こんなもんだろ。
「結衣は決まったか?」
「はい、大丈夫ですよ」
「すいませーん、注文いいですか?」
店員を呼び止めて、注文をした。
ちなみに、俺はカルボナーラとミニピザのランチセット。
結衣は、ミックスサンドとサラダのランチセット。
ランチセットは飲み物とデザートがついてきて、お得だ。
「水族館とか久しぶりだけど、楽しいな」
「私は初めてです」
「あれ? そうだっけ」
「そうですよ。今まで、なかなか機会に恵まれなくて……だから、今日はうれしかったです」
「ならよかった」
「……水族館に来れたことだけじゃなくて、兄さんと……で、デートできたことも、うれしいんですけどね……」
なぜか結衣が赤くなる。
ボソボソと小さい声でなにか言ってたが、店内に流れる音楽がのせいで聞き取れない。
「それにしても、ちょっと慣れてきたな」
「なんのことですか?」
「あー……ほら、フリとか関係なく、結衣と遊ぶのもすごい久しぶりだろ? 実のところ、最初はちょっと緊張してたんだ」
「そ、それはっ、私のことを、い、いいい……意識、したり?」
「? そりゃ、意識するさ」
「はぅっ!?」
ますます結衣が赤くなった。
「ま、ままま、まさか、兄さんの口からそんな言葉が飛び出すなんて……兄さんが、私のことを……あうあう、ど、どんな顔をしたらいいんでしょうか? えへ……でも、幸せです♪」
「結衣も楽しんでくれてるみたいだからな。そういう意味で、すごい意識してるよ」
「……ソウデスカ」
今度は、どんよりした目になった。
なぜだ?
「まあ、兄さんのことですからね、わかっていましたけどね……」
「えっと……どうしたんだ?」
「いえ、なんでもありません。まあ、こんなことになったのには、私にも原因がありますからね……素直になれれば、妙な誤解をさせることもなかったんですが……ふぅ」
「おっ、来たぞ」
話をしているうちに、料理ができて、運ばれた。
「「いただきます」」
まずは、カルボナーラを一口。
……うん、うまい!
濃厚なクリームとチーズがしっかりとからみついていて、厚く切られたベーコンが良いアクセントになってる。
もう一口食べたところで、今度はサラダを。
フレンチドレッシングがかかっていて、口の中をさっぱりとしてくれる。
これもうまいな。交互に食べると、どちらの味も引き立てられて、良い塩梅だ。
「兄さん、とてもおいしそうに食べますね」
「そうか?」
「はい、なんだか、子供みたいですよ。ふふっ」
「子供はひどくないか?」
「鏡、見せましょうか?」
「むぅ」
結衣が笑いながら手鏡を取り出そうとした。
子供っぽいとか、そんなつもりはないんだけどな。
むしろ、俺、大人っぽくないか?
「兄さんが大人っぽいとか、新手の冗談ですか?」
真顔で切り替えされてしまった……ちくしょう。
「結衣のサンド、うまそうだな」
「はい、おいしいですよ。チェーン店のものと違って、けっこう本格的で……ほら、こんなに具があるんですよ」
「おーっ、パンからはみ出そうだな」
「それに、ソースが独特で……はむっ。んぅ……おいしいです♪」
両手でサンドを持ち、ちびちびと食べる結衣。
ニッコリと笑うところはかわいいと思う。
同時に愛らしくて……
結衣の方が子供っぽいのでは? なんてことを思う。
機嫌を損ねてしまいそうだから、口にはしないけどな。
「あっ。結衣、そのまま、ちょっとストップ」
「はい?」