117話 妹とある意味初デート・3
<結衣視点>
「兄さん、私、がんばりますからね!」
「うん? えっと、よくわからないが……がんばれ」
「はぅ!?」
くしゃ、っと頭を撫でられました。
そ、そそそ、そんなことをナチュラルにするなんて……!
兄さんはすけこましですか!?
いえ、これは言葉が古いですね。
なら……妹のハートキラーですか!?
そんなことをされたら、もう、ドキドキが止まりませよ!
ちょっと乱暴だけど、でもでも、兄さんの優しさが伝わってくるような撫で方で……
あうあう、顔がまた熱くなってきました。
本当に熱が出てしまいそうです。
私、ピンチです。
「結衣、顔が赤いけど……」
「なんでもありませんっ」
「いや、でも……」
「なんでもありませんから!」
「そ、そうか。でも、辛いようならすぐに言えよ?」
「は、はい。心配かけて、すいません」
「気にするなって。妹は兄に心配かけてなんぼだ」
そんなセリフを言われたら……
また、ドキドキしてしまうじゃないですか。
ホント、兄さんは妹たらしです。
――――――――――
<宗一視点>
目的の水族館にやってきた。
二人分のチケットを購入して、中に入る。
「おーっ、ザ・水族館、って感じの雰囲気だな」
「くすっ、なんですか、それ」
「わからないか? ほら、水族館ならではの空気とか雰囲気があるだろ? 薄暗かったり、かと思えばどこか神秘的だったり。あんなの」
「わからないこともないです」
入り口は広く、吹き抜けになっていて、とても明るい。
各スペースに続く通路がいくつかあって、どこから見て回るか迷ってしまう。
オーソドックスに、普通の魚から見て回るか?
あるいは、ちょっと変わった深海魚シリーズとか?
はたまた、エビや貝類のコーナーなんてものもある。
イルカショーも捨てがたい。
「兄さん、子供みたいですね」
「うっ……そ、そう見えるか?」
「はい。目をキラキラさせて、とても元気で……かわ」
「かわ?」
「な、なんでもありませんっ」
結衣は、顔を隠すように明後日の方向を向いた。
「あ、危ないところでした……今、ナチュラルに、兄さんのことをかわいい、って言いそうに……あうあう……私、迂闊ですよ……でも、ホントにかわいくて……母性本能をくすぐられるっていうか……あーもうっ、どうして兄さんは兄さんなんですか!?」
結衣がよくわからないことをぶつぶつと呟いてる。
ウチの妹が日頃から落ち着かない件について、誰か知恵を貸してくれませんか?
「とりあえず、水族館オススメのコースを回るか」
「はい、それで構いませんよ」
結衣と一緒に歩き出す。
「ところで……」
「なんですか?」
「手、繋いだままでいいのか?」
「ひゃっ!?」
しっかりと握られた手のことを指摘すると、結衣が小さく飛んだ。
俺の視線を避けるように、今度はうつむいてしまう。
そして、聞こえるか聞こえないか、わからないくらいの声でぼそぼそと。
「それは、その……せっかくの機会、といいますか……今の私たちは、普通の状態で……そんな時でも、兄さんと手を繋いでいたいといいますか……あとあと、こうすることで、兄さんに勇気を分けてもらえるような……あとあと、うれしくて……あぅ、何を言いたいのか、自分でもよくわからなくなってきました……」
「ま、まあ……問題ないなら、このままでいいか」
「は、はいっ、ぜんぜん問題ありません! まあ、し、仕方なくなんですけどね? 本当、仕方なくですよ? わかってくださいね?」
照れ隠しかな?
なんて考える俺は、うぬぼれてるのかもしれない。
薄暗い通路を進むと、すぐに魚が泳ぐ水槽が見えてきた。
「わぁっ!」
隣で、結衣が感嘆の声をあげる。
俺も似たような声をあげていた。
目の前に広がる巨大な水槽。
その中を、小魚が群れをなして泳いでいる。
後ろでは大きな魚がゆったりと水中を進んでいた。
水槽がライトアップされていて、魚たちが光を反射して、キラキラと輝く。
さながら、雪が舞っているかのようだ。
幻想的で、神秘的な光景に、ただただ見入ってしまう。
「素敵ですね」
「だな」
「……こんな光景を見ていると、私という存在がとてもちっぽけなように思えてきます」
繋いだ手に力が込められる。
「私……ずっと、兄さんと見ていたいです」
俺も、結衣の手を握り返した。
「兄さん?」
「見れるさ」
「でも……」
「機会なんていくらでもあるし……まだデートは始まったばかりだぞ?」
「でっ……あぅ、改めて兄さんの口からそう言われると……て、照れてしまいます……はぅ、恥ずかしくなってきました……」
「そう、だな。フリじゃないってのは、ちょっと恥ずかしいな」
「兄さんも、そう思っているんですか?」
「そりゃ、まあ。こちとら、彼女いない歴=年齢の身なんだ。そういう経験がないから、慣れないものは、妹相手でも恥ずかしいさ」
「むぅ……妹相手、という言葉は引っかかりますが……でも、そっか、兄さんも一緒なんですね」
「どうした、うれしそうにして?」
「なんでもありません」
にっこりと笑いながら、結衣がそう言う。
何か良いことがあったような顔をしてるが……まあ、細かいことはいいか。
結衣が楽しんでるならそれでいい。
「次、いくか?」
「はいっ!」