115話 妹とある意味初デート・1
次の日曜日がやってきた。
結衣の希望を聞いて、今日は水族館でデートをすることになった。
水族館なんて久しぶりだ。
小学生の遠足以来だろうか?
なので、ちょっと楽しみだったりする。
「にしても……結衣のヤツ、遅いな?」
いつかの光景を再現するように、俺は駅前広場で結衣を待っていた。
以前と同じように、家は別々に出た。
デートだから待ち合わせをしないといけません、と力説された。
よくわからん。
一緒に家を出た方が効率的なはずなんだが……
まあいいか。
結衣がそうしたいっていうなら、付き合うことにしよう。
「兄さんっ」
振り返ると、結衣がこちらに駆けてきた。
「すいません、お待たせしました」
「大して待ってないから、気にしてないさ」
「はぅ……で、デートの定番のセリフが……これ、実際に言われると、とてもキュンとしてしまいますね……兄さんが相手ならなおさら……破壊力抜群です」
「どうかしたか?」
「いえっ、なんでもありません!」
もじもじとする結衣。
なんか、今日はいつもと様子が違うな?
デートなんて、もう何回もしてるのに。
「ん?」
「な、なんですか?」
「その服、見たことないけど……新しく買ったのか?」
「は、はい……買っちゃいました。どう、ですか?」
「だから、なんか違和感があったのか……うん、似合ってるぞ。かわいい」
「か、かわ……!?」
ぼんっ、と結衣が赤くなる。
照れた……のか?
でも、これくらい、今までに何度も言ってるよな?
今更だと思うんだが……
「うぅ……兄さんが、か、かわいい……って……あうあう……は、恥ずかしいです……でもでも、うれしいです……」
「結衣? なんかおかしいぞ?」
「それは、その……フリでもなんでもなくて、普通にデートするのは……は、初めてじゃないですか?」
「そう言われると、そうなるのか……?」
「だから、なんていうか……へ、変に意識してしまって……」
言われてみると、今日のデートは『恋人のフリ』はまったく関係ない。
よくわからないまま、普通に結衣とデートすることになった。
そのせいで、結衣は……
いつも以上に、イヤに思ってるのかな……?
普段なら『フリ』のために、という大義名分があるから、我慢できただろうけど……
今日は、そんなものはない普通のデートだからな。
仕方なく、我慢して付き合っているのかもしれない。
「なんでこうなったのかよくわからんが、せっかくだから、今日は楽しもうぜ」
「は、はいっ。がんばります!」
何をがんばるんだ?
「じゃ、行こうか」
いつものように、結衣の手を取る。
「ひゃいっ!?」
「結衣?」
「に、ににに、兄さんっ!? あの、その、手が……」
「ん? ……あっ、悪い!」
言われて、結衣の手を離した。
いつも、当たり前のように手を繋いでたから、つい自然に。
ここ最近は、手を繋ぐことが当たり前になってたんだけど……
結衣は、そう思ってなかった、ってことなのかな?
でないと、手を繋ぐのをイヤがったりしないよな。
仲がちょっとでも良くなったような気がして、うれしかったんだけど……
そう思ってたのは俺だけ、っていうことか。
ちょっと凹む。
「あっ、いえ、あの! 兄さんと手を、つ、繋ぐことがイヤというわけではなくてですね……!」
俺の落ち込みを察したのか、結衣がそうフォローしてくれる。
優しい妹だなあ。
俺が相手でも、慰めてくれるなんて。
「気をつかわなくてもいいぞ。今のは、俺の気遣いが足りなかったのが悪いと思うし」
「い、いえっ、本当に、その……ちょっと驚いたといいますか、変に意識してるせいでいつもよりドキドキしてしまったといいますか……」
「うん? それは……」
「か、考えないでください!」
「えぇ!?」
無理難題をふっかけられた。
結衣がよくわからないことを言うから、考えようとしたら……考えるな、って。
俺はどうしたらいいんだ?
「と、とにかく、イヤじゃありませんから! 怒ってるわけじゃありませんから!」
語気が荒いんですが、それは?
「むしろ、うれし……いえっ、なんでもありません! 新鮮な気分がして、すごくドキドキして、胸がキュンキュンなんてしていませんからね!? 勘違いしないでくださいよっ!」
「お、おう?」
相変わらず、結衣の言うことはよくわからない。
年頃の妹は難しい……
「さ、さあ、そろそろ行きましょうか。こんなところで時間を使っていたら、日が暮れてしまいますよ!」
「そうだな。せっかくのデートだもんな」
「っ……! で、デートとか言わないでくださいっ、余計に意識しちゃうじゃないですか! フリでもなんでもなくて、普通の……初めての、兄さんとの、で、ででで、デート……兄さんのばか!」
理不尽になじられる俺だった。