114話 妹のために考える妹の作戦
「と、いうわけで……今度、お兄ちゃんとデートしたらいいよ!」
「……はい?」
突然、真白ちゃんがリビングを出ていって……
しばらくして戻ってきたら、いきなり、わけのわからないことを言われました。
「お兄ちゃんにはもう話をつけてきたから、安心してね! 次の日曜日! 場所は、二人で決めてね♪」
「ちょ、ちょっと待ってください? えっと、あの……どういうことですか?」
「うい? お兄ちゃんと結衣お姉ちゃんがデートするんだよ」
「いえいえいえ。何をするのかがわからないのではなくて、どうしてそんな話になったのかが理解できないんですけど……」
真白ちゃんは、猪突猛進なところがありますが……
その性格、なんとかした方がいいような?
まあ、これはこれで真白ちゃんの美徳なのかもしれませんが。
「どういうことなのか、順を追って説明してくれませんか?」
「えっと……かくかくしかじか」
「わかりませんからね!?」
「あれぇ?」
「かくかくしかじかでわかるのは、漫画くらいですよ」
「えっとね……結衣お姉ちゃんは、その、お兄ちゃんを信じることができないんだよね?」
ちょっと申し訳なさそうに、真白ちゃんがそう言いました。
「そう、ですね……」
「真白、考えたんだ! どうすれば、結衣お姉ちゃんの問題を解決できるか! それで、思いついたんだけど……」
「兄さんとデート……ですか?」
「うんっ!」
うーん、真白ちゃんの思考は謎ですね。
どういう考えをしたら、そういう結論になるんでしょうか?
とりあえず、もう少し話を聞いてみましょう。
「あのねあのね、『信じる』っていうのは、仲が良くないとダメだと思うんだ。仲が悪い人のことは信じられないからね」
「はい。それはわかりますよ」
「だから、デートだよ」
「いえ。それはわかりませんよ」
真白ちゃん、天丼はもういいですからね……?」
「もうちょっと、詳しく……」
「つまり、お兄ちゃんと今以上に、もっともっと仲良くなろう! っていうこと」
「今以上に……?」
「お兄ちゃんともっともっと仲良くなれば、信頼関係も生まれると思うんだ。それに、一緒にいればお兄ちゃんの優しいところがわかって、信じやすくなると思うし、お兄ちゃんの強さを分けてもらえそうだし……とにかく、一緒に過ごすことは、良い方向に働くと思うんだ♪」
「それで、デートですか」
「うん!」
なるほど、と納得しました。
真白ちゃんの言う通りかもしれません。
兄さんと一緒に過ごすことで、信じることができるようになる。
臆病な自分を過去のものにして、前に進むことができるかもしれない。
兄さんと一緒なら……
「……っ……」
不意に、お母さんの姿が思い浮かびました。
家を出ていって、もうそれなりになるのに……
未だに、お母さんの顔を、姿を、ハッキリと覚えています。
忘れていません。
忘れられません。
私は、お母さんの娘なのだから……
そんな私が、兄さんを裏切らないなんて……
「……いえ」
そういう風に考えてしまうところがいけないんです。
私はダメダメです。
兄さんを信じることができない、どうしようもない妹です。
彼女失格です。
それ以前に、妹失格です。
でも。
だけど。
このままでいたくないから。
本当の意味で、兄さんの『妹』になりたいから。
怖いけれど……
前に進みたいです!
「……わかりました」
「じゃあ」
「はい。兄さんとデートしてみようと思います」
「さすが、結衣お姉ちゃん! きっと、そう言ってくれると思ってたよ」
「真白ちゃんが応援してくれているのに、がんばれないなんて……そんな情けない真似はでませんからね」
「かっこいいよ、結衣お姉ちゃん♪」
「かっこいいは、ちょっと複雑な気分ですが……」
どうせなら、かわいいの方がうれしいです。
兄さんに言ってもらえると、もっと最高です。
『結衣はかわいいな』なんて言ってくれたら……きゃあきゃあ♪
って、いけません。
こんな時なのに、妄想に走ってしまいました。
「じゃあ、今度の日曜日、デートで決定だね!」
「はい」
がんばらないといけません。
日曜日のデートで、兄さんのことをより深く知って……
兄さんのことを信じられるようにならないと!
「……あれ?」
ふと、疑問に思います。
兄さんとは、今まで、何度もデートをしてきましたが……
それは、全部『恋人のフリ』という事情があるから。
そういう大義名分があったから、気兼ねなくデートすることができました。
でもでも、今回は違います。
『恋人のフリ』はまったく関係なくて……
普通に兄さんとデートをする。
これは、ある意味、初めてデートをすることになるのでは……?