113話 妹の『嫌い』
父さんも母さんもいた頃、俺と結衣の間でとある事件が起きた。
あれは、結衣の誕生日のことだ。
家族みんなで結衣の誕生日を祝った。
もちろん、俺も祝った。
でも、当時の俺はまだまだ子供で……
金のかかったプレゼントなんて用意できなかった。
本当なら、結衣が常日頃欲しい欲しい、って口にしてたぬいぐるみをプレゼントしてやりたかったんだけど、それは叶わなかった。
でもって、当時の俺はアホというか考えが足りないっていうか……
バカ正直に、結衣に聞いちゃったんだよな。
誕生日プレゼント、なにが欲しい? ってな。
我ながら、アホな子供だと思う。
誕生日プレゼントとかは、サプライズが大事なんだ。
事前にプレゼントの内容がわかっていたら、うれしさ半減だ。
まあ、子供のすることだから、と大目に見てほしい。
俺の問いかけに、結衣は……
「なんて答えたんだっけな?」
なにしろ、昔のことだから詳細なやりとりまでは覚えてない。
確か、そう……俺が、なんでも好きなものをプレゼントする、って言って。
それに対して、結衣がなにか、欲しいものを答えたんだ。
結衣が欲しがっていたものがなにか、それは忘れてしまったが……
結局、俺は結衣が求めるものを用意できなかった。
それで、結衣とケンカになってしまった。
約束を守ってくれなかった、ウソをついた。
なんて言葉から始まり、結衣が拗ねて、怒って……
『兄さんなんてきらいです!』
最後に、そう言われてしまった。
その場の勢いに任せた発言だ。
本気にすることはない。
事実、誕生日の後、数日は拗ねてた結衣だけど、しばらくしたら元通りになった。
でも……
それから色々なことがあって……
気がついたら、結衣は俺を避けるようになっていた。
以前のように親しくしない。
距離を置いたり、よく怒るようになったり、ジト目を向けてきたり。
『嫌われて』しまった。
今思うと、誕生日の時の約束を破ってしまったことが、きっかけだと思う。
俺が結衣の約束を守れなかったことは、事実だからな……
そのことで信頼を失い……
積み重なったものが、一気に爆発して、今のようになってしまったんだろう。
過ぎてしまったことはどうしようもないんだけど……
たまに、もしもあの時、結衣が望むものをプレゼントできていたら?
結衣と交わした約束をしっかりと守ることができたら?
そうしたら、あるいは、今も結衣と仲良くできていたのかもしれない。
「……ホント、今更の話だよな」
昔のことを悔いても仕方ない。
結衣とまた仲良くなれるように、今できることをやらないとな。
……まあ、なにをどうすればいいか、さっぱりなんだが。
「お兄ちゃん!!」
「うおっ!?」
突然、バンッと扉が開いて、真白ちゃんが突撃してきた。
びっくりした。
考え事をしてたから、なおさらだ。
「真白ちゃん、部屋に入る時はノックをしような?」
「それどころじゃないんだよっ、お兄ちゃん!」
「うん?」
いつも元気な笑顔を浮かべてる真白ちゃんが、今は真剣な顔をしてる。
「どうしたの? 今は、結衣と一緒に後片付けをしてるんだろ? ……もしかして、食器でも割っちゃった?」
「そうじゃないのっ、違うのっ!」
「えっと……?」
「結衣お姉ちゃんが……あっ、でもでも、これ言ったらいけないし……あーうー……なんて言えばいいのかな!?」
真白ちゃんは混乱してる。
メダ○ニでもかけられたのかな?
「真白ちゃん、よくわからないけど落ち着いて」
「真白、落ち着いてるよ!」
「いや、ぜんぜんそうは見えないんだけど」
「むしろお兄ちゃんが落ち着いて!」
「俺!?」
「真白の代わりに慌てれば、きっと、真白も落ち着くよ! ほら、慌てる人を見ると逆に冷静になる、って言うでしょ?」
「言うけどね? それはちょっと違うかな? あと、自分が慌ててるって認めたね?」
「あーうー! 違うのっ、真白はお兄ちゃんと漫才がしたいわけじゃないの!」
「漫才言った!?」
「えっと、えっとね!」
言葉がまとまらないらしく、真白ちゃんはもどかしそうに、うーとかあーとか唸る。
そうして、まごまごすること少し。
「あっ!」
やっと言葉がまとまったらしく、真白ちゃんはピンと閃いたような顔をした。
「お兄ちゃん! 今度、結衣お姉ちゃんとデートして!」
「……え?」
「ホントは、真白がなんとかしてあげたいんだけど……でもでも、真白じゃダメなの! これ、どうにかできるのはお兄ちゃんだけだと思うから……だから、お兄ちゃんが結衣お姉ちゃんの力になってあげて!!!」
「え? あ、うん。結衣が困ってるなら、なんでもするつもりだけど……?」
「じゃあ、今度、結衣お姉ちゃんとデートしてね!」
「あ、はい」
こうして。
さっぱり状況が掴めないながらも、結衣とデートすることになった。
……ホント、どういうこと?