表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
110/300

110話 妹の秘密特訓

<結衣視点>



 料理特訓は、大成功といってもいい結果を残すことができました。

 兄さんに『おいしい』と言ってもらえて……


 えへ♪

 兄さんに喜んでもらえました。

 私の手料理を、おいしいって言ってくれて、全部、残さずに食べてくれて……

 はぅ……笑顔でハンバーグを食べる兄さんの顔、かわいかったです。


 ハンバーグを作る時は、いっぱいいっぱい、兄さんのことを考えました。

 真白ちゃんの言う通り、愛情をたっぷり込めました。

 そんなハンバーグを兄さんが食べたということは、私の愛情を受け取ったといっても過言ではなくて……


 あうあう、ど、どうしましょう?

 今になって、急に恥ずかしくなってきました。

 兄さんが私の愛情を……はう。

 もしも、私の気持ちに、き、気づかれたりしたら?

 うれしいやら恥ずかしいやら、心が大混乱です。


 それはともかく。


 もう一つの特訓は、今ひとつでした。


「料理、うまくできてよかったね」


 一緒に後片付けをしていると、真白ちゃんが笑顔でそう言いました。


 料理を教えてもらった上に、後片付けまで手伝ってもらっては申し訳ないと思ったんですが……

 でも、真白ちゃんはにこにこ笑顔で、ちょっと強引に、手伝いをしてくれました。

 その上、料理の成功を自分のことのように喜んでくれて……


 真白ちゃん、本当にいい子です。

 そして、かわいいです。

 なでなでしたいですが、今は食器を洗っている最中なので、それはできません。


 ちなみに、兄さんは自室に戻りました。

 兄さんも手伝おうとしましたが、兄さんがいたら真白ちゃんと『二つ目の特訓』についての話がでませんからね。

 手は足りていると説明して、戻ってもらいました。


「上手にハンバーグを作ることができたのは、真白ちゃんのおかげです。ありがとうございます」

「いえいえ、どういたしましてだよ! いつでも、手伝うからね。これ、社交辞令じゃないからね? ホントに、いつでも呼んでいいからね?」

「いいんですか?」

「もちろん! 私は、結衣お姉ちゃんの料理の先生だからね!」

「えっと……じゃあ、機会があれば、またお願いしたいです。まだまだ完璧とは言えないですし……他の料理も覚えたいですし……」


 ハンバーグは、なんとなくですが、作り方は覚えました。

 とはいえ、一度の成功でこれから全部うまくいく、なんてことは思えなくて……

 ちょっと自信がありません。

 まだ手をつけたことのない他の料理となると、なおさらです。


 真白ちゃんという先生がいれば、とても心強いです。


「……はぁ」


 とあることを思い出して、料理がうまくできて上昇した気分が、すぐに下降してしまいます。


「もう一つの特訓は、微妙でしたね……」

「あー……まあ、そんな日もあるよ。うん!」


 真白ちゃんは慰めてくれますが、落ち込んだ気分はなかなか回復しません。


 もう一つの特訓。

 それは……


「『兄さんに対して素直になること』……うまくいきませんでした。言葉につっかえたり、感情が顔に出てしまったり……微妙な態度をとってしまったと思います」

「うーん……結衣お姉ちゃんの援護をしたいけど、できないかも」


 料理の特訓と並行して行われることになった、素直になる特訓。

 その内容は、『思ったことをそのまま口にする』というものでした。


 例えば、私の料理を食べた兄さんが、『おいしいよ』と言ってくれた場合……

 普段の私なら、恥ずかしさから、照れ隠しに心無い言葉をぶつけていたでしょう。

 でも、それは封印。

 恥ずかしさを必死に我慢して、『うれしい』という本音を伝えることにしたんです。

 そうすることで、素直になれない自分を変えていこう……と。


 特訓の結果は……微妙なところでした。


 ある程度、思ったことをそのまま口にすることはできました。

 でも、素直になれたのは半分くらい。

 心の奥底にある本音は、ずっと引き出しにしまわれたままでした。


 フルオープンになっていたのなら……

 『私の料理をおいしいって言ってくれて、すごくうれしいです。兄さん、好きです♪』

 ……まで言ってましたからね。

 『うれしい』で留まっていたので、まだまだ、素直になれたとは言い難いです。


 いつか、素直に『兄さんが好きです♪』と言えるようにならないと!


 ……そんな未来がまったく思い描けません。

 本当に、うまくできるんでしょうか?


「大丈夫だよ。結衣お姉ちゃんなら、きっとうまくできるよ!」


 不安を伝えると、真白ちゃんは笑顔で励ましてくれます。

 うぅ、本当にいい子です。私の妹にしたいです。


「まあ、今日は特訓初日だから、しょうがないんじゃないかな? いきなりうまくいくなんてこと、ないと思うし……」

「そうでしょうか……?」

「そうだよ。結衣お姉ちゃんはなんでもできそうなイメージがあるけど、そういうわけじゃないんでしょ? 勉強にしても、日頃の予習復習があるから、良い成績を残せたんでしょ? それと同じだって」

「そう……かもしれません」


 勉強も、一朝一夕でどうにかなるものではありません。

 日々の積み重ねがあって、始めて成果が出るもので……


 ……そうですね、真白ちゃんの言う通りかもしれません。

 すぐにどうにかなるものではないんでしょうね、きっと。

 私は、少し焦り過ぎていたのかもしれません。


「ねえねえ、ちょっと聞いてもいーい?」

「はい、なんですか?」

「結衣お姉ちゃん、なんか焦ってる?」

「え?」


 ずばり、内心を言い当てられて、思わず動揺が顔に出てしまいます。

 それを的確に察した真白ちゃんは、なるほどー、というような顔をします。


「やっぱり、そうだったんだ。なんとなく、そんな気がしてたんだけど……」

「鋭いですね」

「これでも、人を見る目はあるんだよ! えっへん。……あれ? 人を見る目は関係ない? 心を読む目? ……まあいいや。とにかく、大好きな結衣お姉ちゃんのことだから、見ていれば、なんとなくわかるよ」


 とてもうれしい言葉でした。

 本当にうれしかったから……


 真白ちゃんにだけは、本当の本当の心を打ち明けることにしました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界ものの新作を始めてみました。
↓のリンクから飛べます。
二度目の賢者は間違えない~最強賢者が転生したら、なぜかモテモテになりました~
よかったらどうぞ。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ