105話 妹はわがままになるべき
<結衣視点>
私の答えが予想外だったらしく、真白ちゃんは目を丸くしました。
そんなに驚くことでしょうか?
兄さんに告白する女の子が現れるかもしれない。
それは、想像するだけで目眩がするくらい、心穏やかではいられませんが……
でも、私はそれをどうこうすることはできません。
全部、兄さんが決めることですから……
「うーん? 最後も、もちろん邪魔する、って答えると思ってたんだけど……?」
「そんなことしませんよ。二人きりでいたり、手を繋いだりしたら許せませんけど……でも、告白を邪魔するなんて」
女の子にとって、告白はとても大事なことです。
兄さんに恋してるからこそ、そのことはわかるつもりです。
邪魔するなんて、できません。
「今までの質問と答えからして、結衣お姉ちゃんはかなり嫉妬深いタイプだと思ったんだよね。だから、お兄ちゃんが告白されるのも受け入れられないと思ったんだけど……」
「いくらなんでも、そこまでしませんよ」
「してもいいんじゃないかな?」
「え?」
「だって、結衣お姉ちゃんは、お兄ちゃんの恋人なんでしょ? なら、恋人がいるのに告白する方がおかしくない? 横取りしようとしてるわけだし」
「それは、そうかもしれませんけど……」
でも、私は……
兄さんが、私じゃなくて他の女の子が好きになったというなら、それを止める権利なんて……
「むーん……結衣お姉ちゃんって、厄介な性格をしてるね」
「厄介……ですか?」
「うん、すごく厄介。嫉妬深いんだけど、肝心なところでは自分を殺しちゃう、我慢しちゃう……すごく慎重なのかな?」
慎重なんでしょうか?
自分のことだけど、よくわかりません。
「むー、むー……むぅ?」
混乱してしまったらしく、真白ちゃんは腕を組んで、かわいらしく小首を傾げます。
なんだか、口を挟んではいけない雰囲気なので、私はおとなしく、真白ちゃんが落ち着くのを待ちます。
そうして待つこと少し。
真白ちゃんが、『まあいいや』と言って、言葉を紡ぎます。
「なんで、結衣お姉ちゃんが『そう』なのかわからないけど、今、考えても仕方ないことだもんね。スルーしておこうかな」
「『そう』……?」
「あ、気にしないで。こっちの話だから」
「はあ」
「で、話を戻すけど……真白ちゃん判定の結果、結衣お姉ちゃんは、かなり嫉妬深いという答えになりました!」
「うぅ、あまりうれしくない答えですね」
「どうして? 嫉妬するのは良いことって、真白、言ったじゃん」
「本当にそうなんでしょうか……?」
あまり自覚していませんでしたが……
私、嫉妬をして、兄さんに迷惑をかけているような……?
というか、嫉妬やら素直になれない性格のせいで、兄さんにいらぬ誤解を与えているような……?
そのことを考えると、やはり、あまり良いこととは思えません。
そう真白ちゃんに伝えると……
「それは、結衣お姉ちゃんが嫉妬してるだけで、自分の気持を伝えていないからダメなんだよ」
「私の……気持ち?」
「嫉妬するのは良いの。誰だって独占欲はあるし、好きな人が相手ならなおさらだよ。でもでも、嫉妬すると同時に、自分の気持ちを伝えないと。こうこう、こういう気持ちだから嫉妬してるんだよ……ってね」
「つ、つまり……」
私が嫉妬したり素直になれないのは、兄さんが好きだからなんですよ?
……と、兄さん本人に伝えろ……と?
「む、無理です! そんなこと、絶対に無理ですよ! 兄さんに、す、すすす……き……って、伝えてしまうなんて!!!」
「でも、そうしないと変に勘違いされたり、妙な誤解をされたりするよ?」
「うっ……」
すごく心当たりがあるので、思わず言葉に詰まってしまいました。
「うーん、結衣お姉ちゃんは、素直になれないことが一番の問題なのかもね。もっと素直に心をオープンにすれば、嫉妬してもかわいいって見られるだろうし、良いこと尽くしだよ!」
「真白ちゃんの言うことはわかりますが、とはいえ、そう簡単に素直になることもできず……」
「なら、特訓しよう!」
「え?」
「結衣お姉ちゃんが素直になれる特訓! これも、『妹らしく』なることに関係してるし、がんばろうよ!」
「それは、でも……素直になれる特訓なんて、知っているんですか?」
「わかんない!」
元気よく答えられて、思わずコケてしまいそうになりました。
私、リアクション芸人じゃないんですけど……
真白ちゃんが相手だと、どうも調子が狂いますね。
「わからないのなら、特訓のしようがないのでは……?」
「そんなことないよ。わからないなら考えればいいんだよ」
「そんな簡単に言われても……」
「でもでも、考えないことには始まらないよ?」
「あ……」
「それに、昔の人はわからないことだらけだったけど、考えて考えて、色々な問題を解決してきたよね? なら、わからないからって諦めないで、まずは考えてみるのが良いと思うな……って、お母さんが言ってたような気がする!」
「受け売りですか……」
ついつい、笑ってしまいます。
でも……
そうですね、真白ちゃんの言う通りです。
わからないからといって、そこで諦めていたら何も変わりません。
私は……変わりたいです。
兄さんの『妹らしく』なるために、がんばりたいです。
だから……
「わかりました。素直になれる特訓、がんばってみたいと思います」
「おー! それでこそ、結衣お姉ちゃんだよ!」
「ひゃ!?」
真白ちゃんが笑顔で抱きついてきた。
「ま、真白ちゃん?」
「えへへー。結衣お姉ちゃんが、がんばるって聞いたら、なんかうれしくて」
私が、がんばることができるのは、兄さんのためだから。
それと……真白ちゃんの元気を分けてもらっているからですよ?
ありがとうございます。
感謝の気持ちを込めて、真白ちゃんの頭を優しくなでました。
「結衣お姉ちゃんのなでなで、気持ちいいなー、はふぅ」
「真白ちゃん、猫みたいです」
「真白、お兄ちゃんと結衣お姉ちゃんの家の猫になる、にゃーん」
特訓は、少しおあずけにして……
もうちょっとの間、真白ちゃんと穏やかな時間を過ごしました。