104話 妹は嫉妬してなんぼです
<結衣視点>
真白ちゃんをキッチンに迎えて……
代わりに、兄さんは自室に退場してもらいました。
料理の練習が気になるみたいで、見学したいと言ってましたが……
ダメです。
見学なんて、絶対にダメです。
私が料理の練習をするのは、単純に料理の腕を磨きたいということもあり……
『妹らしく』あることに関係していますが……
それだけではありません。
『兄さんに私の手料理を食べてもらいたい』という想いがあるんです。
つまり、兄さんのため。
兄さんのためにがんばるところを兄さんに見られるなんて……
そんなの恥ずかしいです。
がんばっているところを見て、兄さんが、私のき、ききき、気持ちに気づいてしまうかもしれませんし……
そんなことになったら、どうしていいか。
なので、兄さんには退場してもらいました。
「真白ちゃん、今日はよろしくお願いします」
「うん、任せてー!」
真白ちゃんは、にっこりと笑います。
私のわがままに付き合ってもらっているのに、イヤな顔一つしません。
真白ちゃん、天使?
「どうしたの、結衣お姉ちゃん? 真白のことじっと見て……なにかついてる?」
「あ、いえ。真白ちゃんはかわいいなあ、と思いまして」
「え、真白かわいい? えへへ、結衣お姉ちゃんみたいな美人さんにそう言ってもらえるとうれしいな」
「私も、真白ちゃんにそう言ってもらえてうれしいですよ」
やっぱり、真白ちゃんは天使かもしれません。
こんなことを普通に言える子、なかなかいませんからね。
かわいいです。
こんな妹が欲しいです。
あれ?
そうなると、私はお姉ちゃんになって……
私は妹であり姉であり、複雑な立場に。
うーん、それは微妙かもしれません。
私は、あくまでも『妹』であり続けたいです。
「ねえねえ、結衣お姉ちゃん。さっき、真白がお兄ちゃんと内緒話してる時、嫉妬した?」
「うっ……そ、それは……」
「嫉妬しちゃったんだ」
「……はい」
自分よりも幼い子に心を見透かされるなんて……
ちょっと恥ずかしいです。
ついでに言うと、真白ちゃんみたいないい子に嫉妬した自分も恥ずかしいです。
でもでも、仕方ないんです!
兄さんが私以外の女の子と一緒にいると、モヤモヤしてしまうというか、むぅううう、となってしまうというか……
落ち着かないんです。
わがままかもしれませんけど……
私だけを見てほしいです……なんて。
「やっぱり、こういうのはいけないですよね……」
「え? なんで?」
「嫉妬するなんて、かわいくないじゃないですか」
「んー、そんなことないと思うけどな。真白は、どんどん嫉妬した方がいいと思うな」
「そう、なんですか?」
「嫉妬っていうのは、いわゆる愛情の裏返しだからねー。相手のことが好きじゃないと嫉妬しないでしょ? だから、真白は、嫉妬は悪いことじゃないと思うな。まあ、程度にもよるけどね。結衣お姉ちゃんは、激しく嫉妬しちゃう?」
「どうなんでしょう? 自分のことなので、よくわかりませんが……」
「うーん……ぱんぱかぱーん! 第一回、結衣お姉ちゃん、嫉妬判定クイズ! わー、ぱちぱち!」
「ぱちぱち……?」
突然、なにが始まったんでしょうか?
とりあえず、ノリにつられて拍手してしまいました。
「いくつか質問をするから、結衣お姉ちゃんは素直に答えてね? 質問の答えで、結衣お姉ちゃんが嫉妬深いかそうでないか判定するよ」
「なるほど、そういうことですか。わかりました」
「じゃあ、始めるよ? 第一問。お兄ちゃんが見知らぬ女の子と歩いていました。結衣お姉ちゃんはどうしますか?」
「偶然出会ったフリをして声をかけて、相手の人が誰なのか確かめます」
「おおう、迷いのない答えだね」
当然です。兄さんが私の知らない女の子と一緒にいるなんて……
そんなこと許せません! 確かめないと気が済まないです。
第一、兄さんの彼女は、フリとはいえ私なのに……
それなのに他の女の子と二人きりになるなんて、浮気ですよ。浮気。
うぅ、兄さんのバカ! 私のどこがいけないんですか。
私は、兄さんなら何をされてもいい覚悟で、いつも兄さんのことを想って……
あっ、いけません。
思考が暴走してしまいました。
これはただの仮定の質問。本気になっても仕方ありません。
すーはー。
ふぅ、落ち着きました。
もう大丈夫です。
「第二問。お兄ちゃんが見知らぬ女の子と手を繋いでいました。結衣お姉ちゃんはどうしますか?」
「間に割り込んで二人を引き離します! て、手を繋ぐなんて……それは私だけの特権ですよ! ダメです、ダメ! 絶対にダメです!」
って……
またヒートアップしてしまいました。
うぅ……真白ちゃんの前なのに、恥ずかしいです。
どうも、兄さんのことになると自制が効かないですね。
真白ちゃんは嫉妬した方がいいって言いますが、これ、なんとかした方がいいのでは?
「結衣お姉ちゃん、意外と激しいんだね。うんうん。よきかなよきかな」
「いいんでしょうか?」
「真白、言ったじゃん。妹は嫉妬した方がいいんだよ。結衣お姉ちゃんはおとなしそうに見えたから、心配だったんだけど……その必要はなかったかもね」
「そうですか……」
「とりあえず、三問目。最後の質問いくよ?」
「はい、どうぞ」
「お兄ちゃんが女の子から告白されました。結衣お姉ちゃんはどうしますか?」
「兄さんが……告白……」
その光景を想像して……くらりと、目眩がしました。
兄さんが告白されるかもしれない。
ありえないことではありません。
というか、すでに明日香さんに告白されてますし……
他に好きになる人が現れても不思議じゃありません。
だってだって、兄さんはあんなにも優しくかっこいいんですから。
女の子なら、すぐに好きになってしまいます。
もしも、兄さんに告白する女の子が現れたら?
その時、私は?
「……何もしない……と、思います」
「あれ?」