文学少女
私の日頃の想いや、ほんの少しだけですが実体験も織り交ぜながら、今までとは違うジャンルに挑戦してみました。
私の名前は、愉月信音。
「愉月先生……」
振り返ると生徒のひとりが私に手招きをしていた。
授業終わりで少々騒がしい教室。彼女は窓際の最前列に座り、机の上には文庫本が開かれている。挟まれていたであろう栞は古びているものの、丁寧に使われているのだなと感じられる。
「ここ、主人公はどうしてこんな行動をとったのかがイマイチよく分からないんですけど……」
「どれどれ……」
よく見ると、これは昨日私が彼女に勧めた本だった。これ程の文章量を一日で読んだとは……。
私はこっそり微笑んだ。彼女にはバレないように。
「彼女はね、ほら、その前の章で……そう、ここ」
「おぉ……なるほどぉ。流石ですね」
「先生に流石はないでしょー。仕事なんだから」
私にニッコリと笑いかけたあと、再び彼女は読書に集中し始めた。私はその邪魔をしないように、とそっとその場を離れる。
「先生」
まだ質問が残ってたのか……。まだ次の授業まで時間はある。彼女の質問攻めはいつもの事だ。彼女はその読むスピードも光る物があるが、他人とは一線を越えた読解力も兼ね備えていた。それ故に他の生徒が質問してこないような事細かな心理描写などによく気が付き、私に訊いて来るのだ。
「先生……?」
「そんなに何回も呼ばれなくてもちゃんと聞く……」
「この主人公、愉月先生に似てますね」
私はハッとした。ハッとして……またひとりほくそ笑んだ。
今度は彼女にバレてしまった。なぜ笑うの? と不思議そうに私の顔を覗き込んできた。その瞳は真っ直ぐ私を見つめる。
騒がしかった教室。その音が聞こえなくなる。
彼女なら訊いてくれると期待していた。
「いい質問ね。放課後空いてるかしら?」
「え、あっ、はい。図書館くらいしか放課後は行くところないし……」
「じゃあ決まり。そうね……この教室で待ってるわ」