00 なつかしの黒歴史
「……これ、懐かしいですね」
母親たちに頼まれて買ってきたケーキを冷蔵庫にしまっていると、リビングから隆志の声が聞こえてきた。いつもと変わらず優しいイントネーションだが、どこか浮かれたような響きが混ざっている。
コートを脱ぎながらリビングへ移ると、テーブルに積まれた何冊ものアルバムが目にとまった。
またか……。
隆志の母親は、俺たちが買い物に出ているあいだにいなくなっていたが、どうせ隣の自宅から大量のDVDを携えて、また来るんだろう。
たしか正月にもアルバムを引っ張り出してきて、隆志の母親とうちの母親とで『思い出にひたろう会』をしていたはずだ。いや、ホームムービー上映会だったか?
受験真っ只中だったせいもあって俺たちは不参加だったが、写真にしろムービーにしろ、昔話を肴にされる息子としては気恥ずかしいばかりで、あまり嬉しいものじゃない。
なのに、なにがそんなに楽しいのか。
隆志はたいてい自分から進んで母親たちに混ざる。今日もコートを脱ぐのを待ちきれない様子で、妙に頬を緩めながら一冊のアルバムに見入っていた。
感情をあまり表に出さない隆志が、ここまで緩んだ顔を見せるのは珍しいことだ。
不思議に思って、そのアルバムを横から覗き込んでみると、
「なに見て……ってッ、うわ、なにこれ! ちょ、母さんッ! こんな写真、出してくんなよっ」
そこには、懐かしくも恥ずかしい俺たちの黒歴史が写っていた。