第七話:真相①
小子が追ってくることはなかった。俺は再び暗闇の空間を、ただひたすらに歩き続ける。コツコツと響く靴の音だけが支配する中、俺は一度足を止めた。
「……なんだろうな、ホント」
誰に言うでもない呟きを吐き出し、意味もなく上を見上げた。自分の知る小子はあんなアブナイ奴じゃなかった。それが、さっきのはなんだ? 狂気に染まった……狂った人間。
俺は今、中学生の頃までの記憶を取り戻していた。とはいえ元々小学生の時の事はあまり覚えてないが、それでも小子は、あんなことをする奴じゃない。
なにがあったのか。はたまた、彼女の姿はこの世界だけの幻想なのか。もし本当のアイツがあの狂った瞳をしているなら、目を覚まさせてやりたい。けど……
「目を覚ますのは、俺かもな……」
それは現世に帰るという意味でもあり、本当の小子を知って目を覚ます、という意味でもあった。
さぁ、先に進もう。
退路など無いのだから――。
◇
闇も終わりを告げ、俺は新たな場所にやってきた。見覚えのある玄関の扉を開いて、俺は1つの真実に気が付いた。
「……そうか。そうだったな」
わかってしまえば、俺はだいぶ気が楽になった。
中弥、お前は……。
…………。
いや、それはまだいい。今は小子の情報を探すべきだ。
そうして俺は、自分の家に上がったのだった。割と広い二階建ての家で、短い廊下の右手にはトイレと浴場、左手にはリビングがある。しかし、俺はそれらのすべてを無視して二階へ向かった。そして自分の部屋の扉を開く。
静かな6畳の洋室が俺を迎え入れる。電気はなくて暗いが、自分の部屋のものはハッキリとわかる。こんなに散らかっているのだから……。
俺の部屋は基本的に、本や服が出しっぱなしになっている。それで何度中弥に忠告を受けたかわからないぐらいだ。それらをどかして歩き、俺は自分の机に置かれた日記を手に取る。
俺の書いたはずの日記は、またもやページが飛び飛びで必要な部分だけ抜き出されていた。
20xy.04.09(晴れ)
今日から高校一年ということで、日記の書き方も一新しようと思う。起床時間ってなんで書いてたのかわからないしな。こっちの方が日記もつけやすいだろう。
それにしても、今でもこの県で一番の高校に入れたなんて夢みたいだ。塾に通ったりしたし、勉強も頑張ったからな。中学からは中弥だけが同じ高校に来れていた。小子も受けてくれたのにな……やはり難関校だし、そう上手くはいかなかった。
20xy年.05.14(雷)
中弥曰く、なんか小子の様子がおかしいみたいだ。毎日中弥にメールが送られてきて、俺もその内容を見たが、確かに異様だ。同じ文章をコピペしまくって送ってるらしい。しかも毎日、中弥だけに。別に、高校が違っても一緒に遊べるだろ……?
20xy年.07.16(曇り)
俺の日記が中弥に見られた。書き方を変えるなんて雑な奴だと言われたが、部屋のあり様からしてそんな事わかりきってるだろうがこの能天気野郎。
20xy年.08.29(暑いぐらい晴れ)
普通に夏休みだが、俺は本を読み、中弥は勉強、小子は中弥を何度も遊びに誘ったり家を押しかけたりとそんな感じだ。夏祭りも一緒に回っただろうが、小子はそんな事じゃ中弥を諦める気は無さそうだ。
にしても、小子が中弥を好きだったと最近まで気付かなかった俺もかなり鈍感だよな。
20xy年.11.14(雨)
一週間後に俺と中弥の誕生日が迫り、2人で互いに渡すプレゼントを話し合った。俺は文系だからそれにまつわる物を。中弥は理系だからそれにまつわる物を渡す。なんだか知らないが、中弥は絶対に渡すと念を押してきた。アイツがそう言うなら、俺も絶対に渡してやる。
20xy年.11.19(曇り)
中弥へのプレゼントに、関数電卓というものを買った。理系ではなんだかよくわからない英語の文字を数字に使うらしい。サインだかコサインだかわからんが、まぁ役に立つだろ。
あー、アイツ喜ぶかなー。
「誕生日に電卓とか、ふざけてる?」とか言われても知らんぞ……。
そこ以降はページが白紙だった。パラパラとページをめくっていくと、最後の方には赤い文字で日記の続きが書かれていた。
20xy年.11.21(晴れ)
中弥と小子が死んだ。俺はどうすればいいのかわからない。どうしてこうなってしまった。俺たちは幼馴染だっただろうに、なんでお前達は死んだんだ。
だって今日、俺と中弥の誕生日じゃないか。
もう何も書く気にならない。寝る。
20xy年.11.24(―)
中弥の日記を読んだ。原因がある程度わかった。なんでそんな大事な事を俺に教えてくれなかったんだ。そうしたら俺は……。
ここで本当に日記は終わった。いや、終わらせたんだ。
俺はこれ以上日記を書く事はなかった。2人が死んで、俺は何もする気が起きなかったから。
それから俺は空虚に過ごしていた。何をしても落ち着かず、ボーッとして、なんのために生きてるのかもわからなくなるぐらいに……。
そして――小子の腹から血が出ている理由もわかった。小子は自分の腹に、包丁を突き立てた。だからアイツは腹から血を垂れ流して……。
しかし、中弥は傷を負ってなかった。この差はきっと、悪霊になったのかそうでないのかだろう。じゃなきゃ、あんなに2人に差は出ないだろうから。
俺は日記を置いた。
そして、もしかしたらと思って机の引き出しを開ける。
ガラリと開けた引き出しからはいろんな文房具とは別に関数電卓が、パッケージに入ったみ出てきた。本来俺が渡す筈だったアイツへの誕生日プレゼント。渡すことは叶わず、ずっと引き出しに入れたままの品……。
「……。そうだ。この世界なら……」
中弥に渡す事ができる。ふとそう思って、俺は関数電卓を手に取った。
「中弥……」
アイツはきっと、今も俺を見ているのかもしれない。だけど、小子の事があるから安易に姿を出す事ができないのだろう。
でも、死んでいるお前に渡すには、今しかチャンスがない。
「中弥、約束を果たそう……」
絶対に交換すると約束した。今こそ達成するために、俺は隣の部屋に向かうのだった――。




