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王様よ、それは無理があるのではないか


勇者サイトウ 二話


 王宮の中、王の間では選定の剣を抜いた勇者が現れたと騒ぎになっていた。


 「何で?  何で剣抜けたのーっ?」


 王は頭を抱え呻いていた。


 「ぶっちゃけ、勇者とか腐るほどいるから。こんな辺境の国に魔王とか関係ないし、勝手にやりたい奴らでやっときゃいいのに……何で我輩の王国からも出さなきゃいけない決まりなんてあるのだ」


 その隣には大臣が王をなだめようとしている。


 「けれど王よ、以前『万全の策を用いたからもう勇者は現れない』と申しておられたではないですか」


 「そうだ、術師に頼んで選定の剣の刺さる岩に細工した。剣を絶対抜けないようにしたはずなのだが」


 「イカサマじゃないですか!  えっと、何でも剣の刺さっていた岩はバラバラになっていたそうで」


 「それじゃん!  絶対それ原因じゃん!  ってかそれ反則だろ?」


 「いや、どう考えても先に反則使ってるの王だから」


 大臣は政治の本を取り出し、


 「うーむ、剣の事は記述にありますが岩の事までは書いてないですね。というか岩に細工した時点で言い訳出来ません。ここは大人しく援助金の50万Gを払いましょう」


 ぐっ、と王は再び頭を抱える。


 「……無い」


 「……今何と?」


 「だから、無い。50万Gは使ってしまったのだ!」


 「何ですってっ!?  あのお金は勇者の為に中央の大国から出された物をあづかっていたのですぞ!  勇者の為の金であって、我々が使ったとなれば横領ですぞっ。それに、一人分50万Gであって、合計で800万Gほどありましょう」


 「この前800万G全て使い切った」


 「正気ですか!  いいえ、正気じゃないでしょう!」


 「仕方無かったのだっ!  我が人生、いや、この国の命運がかかっていたのだ。現れるかもわからん勇者よりも優先すべき事項だったのだ」


 王は座っている肘掛けに手を思い切り叩きつけた。


 「王よ……そんな事我々に言わずに一人で決断なさっていたとはっ……何があったんです?」


 「魔法オンラインゲーム《クラブル》のレジェンドフェスだ」


 「ネトゲ課金じゃねぇか!  」


 「お前、大臣、今地味にタメ語使っただろう、おい」


 「あれほど言ったでしょう!  《クラブル》はガチャ率操作で当たらないから止めておけと」


 「当たる奴は当てるんだよっ!  何で城の衛兵や、町人共は当てるのに我輩の所には来てくれんのだ!  王の尊厳無いじゃん!  やっぱ一番強いからこその王だろ。リアルでも王ならネトゲでも王となるのは必然だろ」


 「ああっ、先代様方。こんな馬鹿……失敬、このようなお方が王で大丈夫なのでしょうか」


 「今完全聞こえたから。お前後で絶対ギロチン送ってやるからな。いや、テメェの《FG⚫︎》のデータ後で消してやるからな」


 「お前、指一本でも触ってみろクソ王!  クーデター起こして断頭台送り返しにしてやるからな!」


 とうとう、取っ組み合いの喧嘩になった所で、周りの衛兵達が”またかよ”と言って止め始めた。


 「失礼します!」


 王の間に突然聞き慣れぬ声がした。扉の前には一人の男が立っていた。


 「さっき勇者となったサイトウと申します。王に謁見したいのですが」


 大臣との揉み合いを止めて、王がサイトウの方を向いた。


 「ふむ、よくぞ参ったサイトウよ。しかし、勝手に入るのは感心せんな。ここは王の間。我輩の許可無しに入るのはいかんぞ」


 「あれ、さっき下の階の衛兵に勝手に会ってくるといいって言われましたよ。なんかゲームに夢中っぽくてそれ以上は相手にしてくれなくて」


 「我輩の守りガバガバっ?!  まあよい。衛兵たちはもうよい、下がれ。我輩とサイトウの二人だけでよい」


 「どうするんですか、王っ!  お金は無くとも装備ぐらいはちゃんと渡しましょう」


 「やかましい!  お前も下がれ!  うむ。サイトウよ、補助金はすまんが出せんのだ」


 「そんなっ!  じゃあどうやって生計を立てれば……」


 「中央の王都を目指せ、そこに行けば勇者への報酬や補助金、クエストが受けることが出来る。それに装備はとっておきがある」


 王はそう言って、自室へ戻り何かを取ってきた。


 「これだ」


 「あの、どう見ても鍋の蓋なんですけど」


 王が持ってきたのはどこからどう見ても鉄製の鍋の蓋だった。


 「馬鹿者っ!  これは鍋の蓋ではない! 断じて我輩が徹夜でゲームする時にラーメンを作る為の鍋の蓋などではない!  初代王が鍋の蓋に見せかけて隠した秘宝なのだ。とてつもない防御力を秘めておる」


 そう言うと王は鍋蓋を手で持つ。


 「軽く攻撃してみよ。この防御力が分かるはずじゃ。軽くだぞ。本当に軽くだからな。扱う我輩は素人だから熟練度的問題で多分性能が出し切れんと思うのでな」


 言われた通り、サイトウは軽く鍋蓋シールドを叩いた。


 「おぶっっ!」


 軽い一撃のはずが、王の体は吹き飛び、空中で錐揉み回転した末に、後ろの壁に叩きつけられた。


 「ええっ!  王様、大丈夫ですかっ?!」


 「フッ……合格じゃ、この鍋蓋……じゃない。この伝説の盾をお主に託そう」


 「ここそういう場面だったっけ?  ってか伝説の盾バラバラなんですけど」


 見ると鍋蓋はぐにゃりと曲がりバラバラになっていた。王はそこから鍋蓋の取っ手の部分を取り外す。


 「これじゃ……これは魔法防御力が99%の究極のアイテム……そう、忘れとった。これ魔法防御力の上がる装備だった。だから打撃はダメなんだ。ポケットにでも……入れて……おけ……あと、王宮にある物(儂の部屋の物以外)は好きにしてていいから……」


 それを最後に伝え、王は意識を失った。


 「王様っ!  それを教えるために自ら装備して……決してこれを手にして強くなった気になってはいけないって事が言いたかったんだな。伝わったぜ王様。あとはゆっくり休んでくれ」


 意識を無くした王を座り直させ、


「さて……何か色々持って行っていいって言われたからなー。適当に剣とか貰っていくか」


 そう言ってサイトウは王宮を歩き始めた。


 

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