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勇者よ、剣を抜け

 「さあ、誰かこの剣を抜き運命に選ばれし勇者になろうとする者はおらんか!」


 田舎町の一角に部下を引き連れた武官の声が響く。そこには面白い見世物を見に来た野次馬が集まっていた。視線の先には一つの岩に金で装飾された剣が突き刺さっている。


 「お前、勇者だってよ試してみろよ」


 「ダメだって、王宮直属騎士団長のヴェインさんでも抜けなかったんだぞ。俺なんかが出来る訳ないだろ」


 そんな声が聞こえてくる中、群衆の中で1人不安気に震える男がいた。


 「やばい、やばいよ……そりゃこの三年鍛えてきたし腕力には自信があるけど……もし抜けなかったらどうしよう。地方fランクのここでも勇者になれなかったらもう終わりだよ。これ逃したら教会しか行くとこ無い……だめだ。信じろ。抜ける、抜けるぞ、よしっ!」


 質素な布を身に纏っているその青年は覚悟を決めて前に出た。


 「俺が行く!」


 「ほほう、お主はこの選定に身を投じるのだな?  選ばれし勇者となれば王からの援助を受ける事ができるが代わりにその命を魔王討伐へ捧げなければならん、そしてこの選定は一度きりだ。それでも良いか?」


 「やっぱ止めます」


 「何いっ!?」


 「ああっ、すいません。一度決意が緩いだっ……だって一回きりとか言うからさ。今日なんかついてなさそうだから明日にしようかと」


 「いつ引いても同じじゃ!  勇者に選ばれるかどうかは天命によって選ばれている!  早くしろ!」


 武官に急かせれ、乗り気になれないまま男は剣に手を掛ける。


 「さあ、力を込め引き抜くのじゃ!」


 「おう!  行くぜ!」


 威勢のいい言葉を発した男。だが、剣は一向に動かない。


 「……どうした?  早く引き抜け。それとも抜けんのか?」


 「フッ、馬鹿言うな。素人にはわからんだろう。俺は今自身の気と剣の意識を同調させているのだ。全ての準備が……整えっ……ばっ!!……」


 「気のせいかの?  お主力めっちゃ込めてない?  全力で抜きにいってない?」


 「邪魔をするなっ!  俺は剣に眠る魂と会話んおぉぉぉっ!!」


 「いや、お主顔真っ赤なんだけど。手がプルプル震えてるけど。抜きにいってるよね?  んで抜けないのに粘ってるよね?」


 事実、男は滅茶苦茶焦っていた。剣に全力を込めているが、びくともしない。無論、魂の会話もしてないし、剣の意識なんぞあっても聞こえてない。男は最終手段に出た。


 「あーっ!  あんな上空に幻のアイドル、クリネアがいるっ!」


 「「なにっ?!」」


 武官、群衆の目が一瞬だけ離れた。その一瞬。男は剣から手を離し、拳を握ると、剣の刺さる岩に向けて拳を放った。この動作、0.1秒の出来事。鈍い感触が手に伝わると同時、手応えがあった。素早く剣を握り直す。周りは誰一人として気付いてない。


 「何を言っとる?  クリネアなんかおらんじゃないか」


 「抜けたぞ」


 「「何ぃっ!」」


 剣を抜いた男以外の全員が叫んだ。


 「いやなんか一瞬焦ったけど行けたわ。やっぱポテンシャルあったわ」


 「じゃが……刺さってた岩がバラバラなのは何で?」


 「おいおい、武官のおじさん。これは剣を抜くのが目的であって、刺さってた岩なんぞどーでもいいんだよ。結果良ければ全て良し」


 「んー、まあ、岩はどうでもいいか。わしも早く帰りたいと思ってたし。以上で、選定を終了する!  お主は城へ行き王に謁見し、報酬を貰ってくるがいい。お主、名前は?」


 「サイトウです」


 「よし、サイトウよ、行くのじゃ!  お主の冒険はここから始まるのだ」


 武官はサイトウに推薦状を渡して去っていった。


 「よし、王様に会って報酬を貰うとするか!」


 こうして勇者サイトウの伝説が始まったのだった。


 

 

 

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