Ⅵ
そこで、俺の意識は現実へと戻された。
「桐ちゃん!起きて」
「はっ………!!」
病院の一室で、茜のベットに寄り掛かり眠っていた俺が体を起こす。彼女はクスクスと笑っていた。
「昔もだったよね。桐ちゃんってすぐ寝ちゃうの、何時も私に寄り添って━━そんなに疲れてたの?」
寄り添って寝たりしていない!と否定の声は喉の先まで出かかっていたが、茜に優しくすると心に誓っていたために言わなかった。が、照れが顔に表れる。赤くなった俺の顔を見てクスッと笑ってくる茜から、つい目を逸らしてしまった。
生温かい沈黙が室内を満たす。
…………………………。
何時まで耐えつづけられるかという不安に駆られ、話題を変えることを試みた。
「いや、お前と離れる1年前の━━ことを思い出してて」
「んー、ああ、あのクリスマスの日ね」
そう、あの日………彼女のお母さんが死んだ。原因は分からない。元々、お父さんの死んでいたため、その後、近くに住む親戚の家に行くことになったのだ。
「お前のお母さん、なんで死んじまったのかなぁって」
救急車のサイレンの音が少しずつ遠ざかる中、夢中で泣く茜を慰めたのは他でもない俺だった。
「分からない」
「犯人………舞踏会の会場に逃げたんだろうけど。心当たりのある人は無いし、怪しい人もいないとなると━━どうしようもないな」
「そだね」
刹那、二人しかいないはずの室内に殺気が立ったような気がした。バッと座っていた椅子から立ち上がる。
「…………………………」
「桐ちゃん、どうしたの?」
俺の勘違いだろうか。茜は全く違和感を感じた様子もなく、ただ不思議そうにこちらを見てくる。
「もう、帰っちゃうの?」
「いや………何でもない………蚊が飛んでたから、叩こうと思って」
「嘘~、桐ちゃん、この時期は蚊なんて飛んでないよ?」
「ああ、そうか………何かの見間違えかなぁ、あははははは」
失態。今日はなかなかに冴えない俺は、本日二度目となる赤面をしながら椅子に座ることになった。
「まあ、それは良いや。これから俺たちどうする?」
「私、まだ桐ちゃんの約束忘れてないよ?」
頬を膨らまして、茜はこちらを睨んでくる。しばしにらめっこに興じた後、俺は夜一日かけて作ったあるプランを言ってみた。
「デートしようぜ━━って言おうと思ってたんだが、お前がこの状態じゃ」
「デート!?」
茜の奴、意外に食いついてきた。
「良いよ!デートしよ!」
「でも………おま」
「でも、一つ。今日は私ここから出ちゃいけないから。明日から、毎日よろしくね?」
何言ってんだ?毎日だと。俺学校あるんで━━いや、茜のためだ、学校休もう。
「でもさぁ、毎日デートなんかしてたらネタ尽きるんじゃないか?」
「大丈夫!私も色々考えてるんだよ」
自信満々の笑みで見てくる茜から目を逸らす。逸らしながら俺も負けじと言い返してみた。
「俺も実はデート1週間分のプラン、考えてんだよな~」
これは実は本当のことだ。これを一晩中ずっと練っていたためが寝不足になったのだが、まあ良いとしよう。頑張った、俺!
◆◇◆◇
出来上がった俺と茜のプランを一通り見直し、目を合わせて笑いあった。明日から始まる忙しい日々はきっと俺にとっての最高の青春だろう。
俺の立ててきたプランが通ることはほぼ皆無だったが━━。何故だろう、幸い中の幸い、茜の退院は明日の朝ということにもなり………ここ最近の俺は良いことばっかりだ。
「じゃあ、また明日な」
「うん、明日あそこで待ち合わせね?」
がらがらと鳴る病室の扉を開き、もう一度幼馴染みの顔を見る。相変わらずニコニコと笑う彼女に手を振って扉を閉めた。
いや~、良かった良かった。
ひとまず第1話の終わりですね!
明日から当然の如く第2話がでます。簡潔に言えば、桐人と茜のデート話です。
今後ともよろしくお願い致します。




