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元恋人に死亡フラグが立ったなら、俺はどうすれば良いのだろうか  作者: 嚇嚇 鹿鹿
第1話                                  Prologue~Grieve chapter~
6/16

 俺は、突如姿を消した彼女を探すべく、教室から右手の方向に伸びる薄暗い廊下をひた走っていた。その奥、突き当たりには、学校の七不思議である理科室がある。

 そんなことはないだろうなと思いながら、ドアの窓から中をのぞき見てみた。

 

 その時である。

 

 「グガガ………私ノ………私ノ子ヲ………返セェ………」

 

 「うわぁ!」


 低く透き通った女の声だった。闇に包まれた室内から、何かうごめくのが見えたような気がした。


 「………私ノ………私ノ子ヲ………返セェ………私ノ………私ノ子ヲ………返セェ………」


 今だ続く、女の声に顔を引き攣らせ、後ずさる。腰の抜けた俺は一刻も立ち去るべく、身体を180度回転させようとした。


 聞いたことがある。この理科室には、この学校に来るはずだった、少女の母親の霊が取り付いているらしい。9年前から………。



 

 ◆◇◆◇

 

 「ハァハァ………言わなきゃ良かったな、んなこと、いきなり………大丈夫か?」

 

 学校中を走り回った挙げ句、校舎の屋上に辿り着いた俺の目に、茜がぽつんと立っているのが見えた。


 「ううん、なにも━━どうもないよ?」

 「んなわけ………」

 

 茜は振り向き、苦汁に満ちたはずの顔ではなく、心の底からの笑顔を俺に見せた。どこかで見たことがある気がする、と思った。


 「えっとね、有難う、嬉しい」

 「えっ?」

 

 全てを受け入れたかのようなその声は、好きだ。

 腰まで伸ばした黄金色のロングヘアをたなびかせ、こちらに近寄って来る。


 「私、桐人君が大好き」


 寒空の元、俺は人生初のキスをした。まるで永遠の誓いをするかのように。

 二人の愛に応えて、うっすらと雪が降っている。



 「あのさ」

 「ん?ああ、私の病気?………大丈夫、キスで移る病気じゃないよ」

 「いや、そうじゃなくて」

 

 屋上に一つしかないベンチに並んで座る俺達の間は狭かった。


 「9年前」

 「ん」

 「お前、俺とノルマントン2号に乗ってただろう?」


 曖昧な記憶の欠片を総動員させ、僅かだが確か━━9年前のことを、走って茜を探していた時、思い出した。


 「うん、そだよ」

 

 今も雪は降り続き、既に1cmほど積もり、一面真っ白だった。そこにいる幼馴染みは、天使と相まって可愛かった。

 

 「生き残ったのか?」

 「いや、私は死んだよ」


 茜は俯き、何やら思案している様子だった。


 「え?」

 「私、よく分からない。もしかしたら生きてたかも」

 「じゃぁ、どうして━━」

 「うーん、分からない。けど私は、桐ちゃんとの愛で奇跡的に、今もこうやって再開したことだし」

 

 そうだ。これは奇跡だ。

 あの事故後、泣き叫び幼馴染みとの突然の別れを嘆いた俺は、今またこうして━━昔が蘇ったかのようだ。


 「私、死ぬまでの1週間、桐ちゃんとしたいことたくさんあるから、よろしくね」

 「ああ、思う存分かかってこい」


 俺は幸せ者のようだ。

 茜の死を忘れて、これから1週間の計画をあれこれ考える俺達は。



 しかし、次の日、茜は学校を休んだ。 

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